Shine Episode Ⅱ


「騒いでも大丈夫よ。思いっきり楽しみましょう」 

ソニアが言うように彼らの家は隣家までかなりの距離があり、多少騒いでも苦情などこない。

違う見方をすれば、誰かが近づこうものならすぐにわかってしまう、そんな場所にあった。

仲間たちの手でパーティーの準備は整い、籐矢の帰還を待っていたが、待っていたのは仲間だけではなかった。

家が見え、玄関先に立つ人の姿を認めた籐矢は、車のドアを開けるのももどかしく半開きのドアから飛び出し走り出した。



「おかえり。元気そうだね、良かった……」


「征矢、いつ来たんだ」


「今日ついた。病院の見舞いは控えて欲しいと言われていたから、ここで待たせてもらった。

兄さんの顔を見て安心した」



手を取り合って再会を喜ぶ二人に近づく人がいた。



「籐矢さん、無事で……」


「お母さん!」



母の腕に抱きしめられ、籐矢は驚きつつ母の体を抱き返した。

籐矢にとっては継母である沙弥子は実母の妹になる。

実母が亡くなった後、叔母が二人目の母となった。

わが子ではないからと籐矢を疎んじることはなかったが、互いに見えない距離を保ってきた親子関係だった。

継母の実の子である征矢に比べ、自分へ遠慮のある接し方をしているのではないかと籐矢は感じていたが、抱きしめられた継母の腕の強さに、ゆるぎない深い愛情を感じるのだった。



「もう大丈夫なの? 怪我は肩だと聞いたけれど腕は? 不自由はない?」



矢継ぎ早の質問を受け、腕を大きく動かしながら大丈夫だよと笑ってみせる。 

病室で水穂に見せた姿とはずいぶん違い、籐矢の顔は家族に会った喜びに満ちていた。

ソニアが 「中へどうぞ」 と籐矢の家族を家に招きいれ、パーティーの準備ができた部屋とは別の部屋に案内した。

家族への遠慮から部屋を出ようとした水穂を、籐矢が引きとめ強引に自分のそばに座らせた。

ここにいてもいいのだろうかと迷いながらも、水穂は言われるままに籐矢のそばにいることにした。



「兄さんの怪我の一報がはいって、でもぜんぜん様子がわからなくて。

お母さんはすぐにでもフランスに行くって言い出して、説得するのが大変だった。

心配でじっとしてられないって……今にも飛び出して行きそうだった」


「そうか」


「退院したら会えると聞いて飛んできた。お父さんも来たがったけど、まだ体調が思わしくなくて」


「体調って、親父はどうしたんだ」



籐矢の手を握っていた母は、息子を見上げながら征矢の話を引き継いだ。



「おとうさま、籐矢さんが怪我をしたあと倒れたんですよ。過労ですって、無理をしたのね。 

それなのに自分の体よりあなたの心配ばかりして……」



声を詰まらせた母の言葉を征矢が補う。



「籐矢は命の心配はないのか、怪我の程度はどうなのか、後遺症は残らないだろうなって、京極のおじさんに必死に聞いてたよ」


「京極の兄と一緒に、警察庁と警視庁からもお見舞い来てくださったのよ。 

あなたの怪我の説明と謝罪を述べられて……それはもう、ご丁寧に」


「警視庁は誰が?」


「香坂さんとおっしゃる方でしたよ。兄に聞いたら警視総監の次に偉い方だと言われて。

そのような方が来て下さったのかと、おとうさまも恐縮してしまって」



母親の言葉に、水穂の体が大きく反応した。



「父が……」 


「えっ、香坂さんのお父さん? あっ、香坂って同じ苗字だ。気がつかなかった、そうか」


「やはりそうでしたか。お名前から、もしやと思っておりましたけれど……

水穂さんもこちらにいらしてから、私たちにあなたの様子を知らせてくださったのよ」


「ここに僕らがいるのも香坂さんのおかげだよ」



ありがとうございましたと、母親と征矢に頭を下げられ、水穂は 「いいえ」 と小さな声で答えながら顔を横に振った。

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