Shine Episode Ⅱ


リハーサルを終えた籐矢は、本番までの時間を使って仲間との接触をはかった。

現時点において特に変わった動きはないとの報告に、ひとまず安心する。

水穂はどこにいるか聞くと、「彼女、すごくかわいいよ」 と顔を緩ませた仲間の捜査員は、晩餐会が行われるホールの隅へ目配せした。

言われて振り向いた籐矢も水穂の姿に目を細め、視線に気がついた水穂は駆け足で近づいてきた。

俊敏な行動が求められる警察官のサガがこんなところにでるのかと苦笑いしながら、その場で水穂を待った。



「なかなか似合いますね」


「まさかペンギンを着せられるとは思わなかった」


「ペンギンって言わないでください。せっかくの正装がぶち壊しです

でも、燕尾服っていいですね。神崎さんが二割り増しに見えます」 


「見とれただろう」


「はぁ? 見とれてなんかいません。確かに似合ってますけど、まぁ、よくて執事ってところですね」


「ふっ、おまえも似合ってるよ。今日はそのまま帰ってこいよ」


「神崎さん、メイド趣味があるんですか?」


「おう、男はみんなあこがれる。スカートはもっと短いほうがいいけどな」



燕尾服を着た籐矢と、給仕係りに扮装した水穂の会話に緊張はない。



「それ、セクハラ発言です」


「どこがセクハラだ。俺の好みを言ったまでだ」


「わっ、いやらしい。神崎さんの前では絶対、短いスカートは履きません」


「もったいないだろう、その足。しまっておくつもりか? 宝の持ち腐れだ、出し惜しみするな」


「私が足を出そうが隠そうが、神崎さんに関係ありません」



籐矢に足を褒められたとわかっていながらが素直になれず、思いとは裏腹な言葉が口をつく。

それでも褒められた嬉しさは感じていた。



「で、何かわかりましたか?」


「まだだよ。簡単にわかるくらいなら潜入したりしない」


「それはそうですけど……虎太郎君から預かってきた情報は確かです。

ネットで送信したら一瞬なのに、用心のためにわざわざ飛行機で運んできたんですよ。

その情報が役になっているか、私も気になります」


「ふぅん、おまえ、虎太郎って呼ぶのか。なんで名前で呼ぶんだよ」


「気にするのはそこですか? 京極君っての、なんか堅苦しいし、彼も水穂さんって呼んでくれるので」


「なに? 虎太郎のヤツ……」



こんなことで不機嫌になってしまう籐矢に呆れながら、そこには触れず水穂は話題を戻した。  



「今日の晩餐会と征矢さんがもって来てくれた楽譜、関連があるんでしょうか」


「それも探ってみるつもりだ」


「気をつけてください。油断できない相手ですから」


「わかってる。おまえも気をつけろ」



互いの身を心配しつつ、持ち場へと戻った。

征矢が日本から持ってきた品には、ある情報が隠されていた。

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