Shine Episode Ⅱ

「複数の大使館がテロの標的になっていると情報を持ってきたのは、おまえだ」


「そうです。虎太郎君から預かってきました」



虎太郎と呼ぶ水穂の声に籐矢はわずかに顔をゆがませたが、そのまま話が続く。



「詳細は聞いているな」


「はい。私たちが追っていた密輸団の、メンバーの一人が発した情報と断定されたからです。

テロ予告は故意に流されたもので、テロの標的として5カ国の大使館が示されていました」


「そうだ。では、5つの国の中から俺がA国に注目した理由がわかるか」


「宗教団体の施設から見つかったボルトの製造国が特定できたからです。 

ボトルを製造した国と日本は国交がありませんが、A国は国交があります」


「その国を仮にE国としよう。E国は外国との交流を極力制限している。

A国は国交のある数少ない国だ」



どちらも固有名詞を使わずに話を進め、用心の上に用心を重ねる。

その後の捜査で、宗教団体はテロ組織の一時的な隠れ蓑だったとわかった。

教団内部で見つかったボルトについては、 籐矢の父の会社である 「神崎光学」 と科学警察研究所のだした結果が一致し、製造国が特定できた。

ボルトは武器の部品の一部であり、テロ集団の資金源と考えられた。

密輸団と口にしたことで二人の脳裏に辛い一夜がよみがえっていた。

水穂は傷を負い、籐矢は水穂を負傷させてしまったと自分を責めた。

脇腹の傷は残り、傷を目にするたびに二人は事件を思い出すのだった。

無意識に傷跡に手を置いた水穂の手に、籐矢は自分の手を重ねた。

まだ痛みがあるのか? と聞いた籐矢へ 「神崎さんのことを思い出すと、チクッと痛むんですよ」 と水穂が答える。

恋人の顔になった水穂の肩を籐矢が抱き、抱かれた水穂は照れた顔で捜査の話題へ話を戻した。



「組織は、外交の少ないE国に秘密の工場を作ったんですね。

でも、どうやってE国に入り込んだんでしょう……あっ、A国の誰かが手を貸したとか。

A国はE国への唯一の窓口ですからね」


「そうだろう。ではなぜ、外交の窓であるA国大使館を標的に加えたのか」


「われわれを欺くために、わざとテロの候補にA国を入れたのではないかと本部は考えています。

5カ国もの候補を示したのは注意を分散させるためで、テロの目標はA国以外の大使館ということです」



水穂の的確な返答に籐矢が満足そうにうなずく。



「だからといって、A国の警備を軽くするわけにはいかない」


「我々がA国と国交のある某国に注意を向けていると相手に気づかせないためですね」


「そうだ。しかし、今回のテロ予告はわれわれの出方を見るための、犯人側の作戦の可能性もある」


「こちらがどこの国を厳重に警備するのか見定めるための予告だったら、テロは起こらないかもしれませんね」


「そうあってほしいね。警備には相当な人員がつぎ込まれる。彼らの任務が無駄に終わることを願いたい」



妹の事件を思い出したのか籐矢の顔が険しくなった。

大勢の犠牲者がでたテロ事件だった。

水穂にも踏み込めない籐矢の闇の部分である。



「これが本題ですか? 私へ任務内容の確認をしただけじゃないですか」


「そうがっかりするな。なにか忘れてないか?」


「はぁ?」



籐矢の視線をたどった水穂は、「あっ」 と叫び手を叩いた。

リトグラフに添えられていたメッセージカードと楽譜の意味をまだ聞いていない。



「カードの 『Kの部屋にて』 はどういう意味ですか」


「これを見てくれ」



そういうと、籐矢はデスク上のノートパソコンを開き 『Kの部屋にて』 と入力した。

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