Shine Episode Ⅱ


水穂がICPOに赴任の際に持参した情報は、5カ国の在フランス大使館がテロの標的になっているとの情報だった。

日時は不明だったが、その後の調査で大使館にも同様の予告があったことがわかり、それが明後日だった。

籐矢たちはテロを警戒して警備を申し入れたが、大使館側は 「脅しの可能性もある」 として厳重な警備を拒んだ。

そこには外交の面子を保とうとする大使館の思惑と、外部の指示は受けたくないという厄介なプライドがあった。

捜査員たちの粘り強い交渉と外交取引で、表立った警備はしないという約束のもと捜査員の受け入れが認められた。

その後、事態を重く見た大使館は直近の行事を取りやめ万が一の事態に備える姿勢を見せたが、A国大使館だけは行事の変更はないとの回答だった。



「他の国の大使館はこぞって予定を中止したのに、テロ予告がある夜に晩餐会をやるなんて、どういうつもりでしょう」


「脅しには屈しないという大使の意向だそうだが」


「でも、招待客の安全確保が最優先だと思います。それに……」


「続きはあとにしよう。着替えて来いよ」



水穂の話をさえぎった籐矢は立ち上がり、言葉の意味に首をかしげて座ったままの水穂へ手を差し出した。



「着替えるんですか? 出発は明日の昼……あっ、予定より早く出発して敵の目を欺くんですね!

わかりました。すぐ準備してきます」


「そうじゃない」


「はい?」



差し出された手をつかんだものの、水穂には 「そうじゃない」 の意味が分からない。



「まだ話しておくことがある。といっても仕事の話だけじゃないが……」


「もぉ、神崎さんったら、私と話がしたいって言えばいいじゃないですか。ふふっ」



勘違いな納得の顔の水穂に覗き込まれ、籐矢はいらぬ咳払いをしながら遠まわしな言葉を並べた。



「明日から忙しくなる。ゆっくりできるのは今夜だけだが、もう遅い。

話のあとすぐに寝られるように準備しておけということだ」 


「着替えて来いってことは……わかった、パジャマパーティーですね!」


「パジャマパーティーとはなんだ?」



今度は籐矢の頭の中に疑問符が浮かぶ。

どこからパーティーの単語が飛び出してきたのか不思議でならない。



「楽な格好で夜を徹しておしゃべりするんです。了解です、ふたりでパジャマパーティーをしましょう」



自分の都合よく解釈した水穂は部屋を飛び出していった。

残された籐矢の顔に苦笑いが浮かぶ。

寝る仕度をしろと聞いて夜を徹して語り合うという発想はいかにも水穂らしいが、もっと色気のある想像はできないものか。

まさか語り合うのはベッドの中だとは思わないだろうなと、そう考えただけでおかしさがこみ上げてきた。

笑みを浮かべながらも、部屋の隅々へ向ける視線は鋭く神経を研ぎ澄ます。

盗聴には常に注意を払っていた。

捜査内容を聞かれるのも困るが、ピロートークを聞かれるのはもっと困る。

鈍感な恋人がやってくる前にシャワーを浴び、籐矢はもう一度部屋をくまなく捜索した。

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