Shine Episode Ⅱ


「そうですけど……スープだけってわけにはいかないし、ほかに何を作ればいいのか」


「なんでもいいんじゃないか? 潤一郎に好き嫌いはないよ」


「好き嫌いの問題じゃなくて、あの素敵な奥様の手料理にかなうわけないです」


「張り合ってどうする」


「うっ……それって、私には無理ってことですね。作れって言っておきながらあんまりです」



目を潤ませ頬を膨らませた顔が籐矢を睨む。

しまった、いいすぎた……と思ったときはすでに遅く、くるっと後ろを向いた水穂は寝室に向かって歩き出した。

追いかけようとして籐矢が立ち上がった弾みで椅子が倒れ、ガタンと部屋に大きな音が響く。

ビクッと体を震わせ立ち止まった水穂を、追いついた籐矢の腕ががしっとつかみ引き寄せた。



「怒るなよ」


「怒ってません。哀しくなっただけです」


「……言い過ぎた。わるい」


「悪いと思うなら言う前に考えてください。それに……はぁ……もういいです」



なぜ、いつものように言い返してこない、諦めの言葉を言われては、どう向き合っていいのかわからないではないか……

今までにない水穂の反応が籐矢を惑わせる。

同僚であり部下であり、恋人でもある水穂はパートナーと言う言葉がもっともあてはまる。

親兄弟に甘えて過ごすことが少なかった籐矢が、唯一すべてをさらけ出せる相手である。

パートナーにも見放されたのかと不安に包まれた。

水穂の様子を見つつ、背中からこわごわ手を回して細い体を封じ込めた。



「頼みがある。聞いてくれるか?」


「私にもできないことがあります。返事は聞いてからにします」



意地を張るように顔を横にそらした水穂の耳に、籐矢の弱気な声が頼みごとをした。



「結婚祝いの品を一緒に見つけてくれないか。どんな品を選んでいいのか俺にはわからない」


「どなたのお祝いですか? お友達?」


「潤一郎の妹だ。もうすぐ結婚式をあげる。といっても、すでに結婚届は出して夫婦だ。子どももいる」



潤一郎の妹と聞き、水穂は思い当たる顔があった。

籐矢がICPOに転属になり、任務の性質上居所を明かさずにいた頃、籐矢から預かった品を届けてくれた女性がいた。

その人は、近衛潤一郎の妹の静夏ですと名乗った。



「あの人ですか……」


「そうだ。水穂は静夏ちゃんに会ったことがあったな」



親しく 「静夏ちゃん」 と呼ぶ声に、やはりそうだったのかと水穂は思った。

品物を届けてくれたその人は、水穂が品を受け取って感極まった様子を見て複雑な顔を見せた。

そのときは嬉しさが先に立ち彼女を思いやる余裕はなかったが、あとから気になった。

彼女は籐矢に好意を持っていたのではないかということに……

そして、おそらく籐矢も彼女を……

引き出した記憶に胸が締め付けられる。

嫉妬という感情が水穂を苦しめていた。

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