Shine Episode Ⅱ
舞い戻った現場では地元警察の現場検証がまだ続いていた。
近づけませんね……とこぼした水穂を促して、籐矢は路地の先へと足を進めた。
「現場付近で見つからなかったんだ、近くにはないだろう」
「でも、それほど遠くに飛ばされたとは思えませんけど」
「物陰に落ちたかもしれない。俺はこっちを探す、そっちを探してくれ」
野次馬が事故現場へ目を向ける中、二人は路地の隙間をのぞきながらバイオリンケースを探した。
物陰に落ちたとしても小さなものではない、時をかけずに見つかるだろう。
金目の楽器を見つけた誰かが持ち去った可能性もある、盗難品が売買されるルートの検索もしなければ。
そんなことを考えながら、かがみこんで物の隙間を覗いていた籐矢へ幼い声がかけられた。
「なにをしてるの?」
「落し物をさがしてるんだよ。なぁ、これくらいの箱を見なかったか?」
小学校低学年くらいの子どもへ、手で大きさを示しこんな形の箱だと説明すると、聞かれた子は首を傾げたが後ろにいた子が 「ぼく、しってる」 と言い出した。
「どこにあるんだ?」
「こっち」
反対側の路地にしゃがんでいた水穂へ声をかけ、いきなり走り出した男の子のあとを追いかけた。
子どもの足は思いのほか速く追いかける二人は相当走らされ、二本先の路地を過ぎた先の広場まできて子どもたちの足が止まった。
そこは資材置き場で、建築資材に埋もれるようにしてバイオリンケースが横たわっていた。
ケースを持ち上げた籐矢は両端に目をやった。
思ったとおり破損箇所があり、その部分に事件現場で拾った部品をあてがうとぴたりと一致したた。
留学生が持っていたバイオリンケースに間違いない。
「ケースはここにあったのか」
「さっきのところで拾ったの。なにか入ってるかと思ったけど、からっぽだった」
「からっぽ?」
見るからに上質のケースは、子どもの目にも良い物だと映ったようで、宝物でも入っているのではないかと思いここまで運んできた。
いざ開けてみるとケースの中は空で、ここに放置したと言う。
「中を見てもいいか?」
「うん、いいよ」
とりあえずの所有者である子どもに籐矢は見てもいいかと許可をとった。
普通の大人なら勝手に持ってきたことを叱るのだろうが、そうでないところが籐矢らしいと水穂は感心しながら開けられたケースを一緒に覗いた。
男の子が言ったとおり、中にはバイオリンも弓も入っていない。
「バイオリンはどこにいったんだ」
「飛ばされたはずみで中が飛び出したとか?」
「それなら現場にあるだろう。警察が先に見つけているはずだ。なかったということは……」
子供たちがケースを見つける前に、誰かがバイオリンだけを持ち去ったということになる。
目配せした籐矢と水穂は、そのまま子どもへ顔を向けた。
「ひろったとき、この箱はふたが開いていたか?」
「うぅん、しまってた」
「そうか……これを探してる人がいるから返してもらってもいいかな?」
「いいよ」
そういうが早いか男の子二人は一目散に走って逃げていった。
警察と言う単語が聞こえ、勝手に持ってきたことを叱られるとでも思ったのだろう。
「見つかったのはケースだけか」
「ケースだけでも井坂先生に届けますか」
籐矢は鼻をゆがめて苦々しい顔をした。
「中身がないんじゃ話にならないな」 そう言いながら、乱暴にバイオリンケースを振って中味を確かめる。
と同時に、カラカラと中から音が聞こえてきて二人は顔を見合わせた。