Shine Episode Ⅱ
一時帰国が決まってからと言うもの、水穂はめまぐるしい時間を過ごしていた。
留守中の仕事を前倒しで片付け、結婚式で担う役割の打ち合わせにもかなりの時間をさいた。
名目上は 「結婚式出席」 だが、その実、出席者の警護が水穂に課せられた任務である。
任務といっても正式なものではなく、あくまで近衛潤一郎個人からの依頼だ。
実際は近衛家からの内々の要請によるものだが、公僕である立場上それを表に出すことはできない。
それは籐矢にも言えることで、籐矢は新郎の親族として、水穂は友人として招待を受けている。
仮に客船における披露宴で事件が発生した場合、その場に居合わせたため迅速に行動した……と説明がつく。
しかし、事件が起こってから動いたのでは対応の遅れによる被害の拡大は防げない。
そのため、潤一郎を中心に入念な計画が練られていた。
水穂のように招待者として船上に赴きながら、事実上は警備要員として配置される人数もかなりの数になる。
各々の持ち場も決められており、非常時の事態に備えることになっていた。
この計画は極秘に進められ、もしも外部に漏れることがあれば、関わったすべての人々が職を辞さなければならない。
そのため、内々に警備を依頼された人々は、それなりの覚悟を持って引き受けて欲しいと言われていたのだが……
覚悟もスリルや楽しみにかえてしまうお気楽な二人がいた。
帰国を前に仕事に追われる水穂へ日をおかず電話をよこすのは、警視庁きっての美脚の持ち主である内野淳子と岩谷由利だ。
今夜の電話は、ジュンこと内野淳子だった。
『水穂、ドレスにあわせる髪型は決まった?』
『またその話? まだよ。そんなヒマはないの、なんとかなるわよ』
『だめじゃない。私たちは新婦の警護なんだから人目につくでしょう。
綺麗に着飾っても、髪がテキトウじゃ魅力も半減よ』
『新婦より目立ってどうするのよ。控えめにしなきゃ』
『その新婦の須藤さんに言われたの、オシャレをしてくださいねって。せっかくの豪華披露宴、楽しまなきゃ』
『須藤さんと話をしたんだ。どんな人だった?』
『綺麗な人よ。でもそれだけじゃない、きびきびして頭の回転が速い女性ね。
自分の意見をスパッと口にするところなんて、ホント気持ちいいの。
さすが、近衛ホールディングス副社長、近衛宗一郎が選んだ女性だわ』
『ジュンと話が合いそうね』
『ふふん、もうジュンさんとお友達よって言われちゃった。セレブの警護って楽しいかも~!
披露宴の警備のことがバレて警察を辞めたら、セレブSPの仕事でもしようかなぁ』
『ジュン!』
新郎と新婦には、警察関係者が極秘で警護につくことは伏せられていた。
もし何らかのトラブルが発生して警察関係者の関与が公になったとき、新郎新婦へ責任が及ばないための配慮だ。
水穂の友人二人もこの件に関しては重々承知しているが、ジュンの悪い冗談に水穂は声を荒げた。
『冗談よ。まだ警察を辞めるつもりはないからね。でもさぁ、私に合ってると思わない? セレブSP』
『はいはい、わかったから。それで、客船の下見は?』
『もちろん行って来た。予想以上に広いわね。警備という点では非常に厳しいかな。
元来船は海の上で楽しむための空間だから、外部からの侵入者への対策が不十分なのよ。
問題点があるとすればそこでしょうね。そのあたりを重点的に、ユリと詰めていくつもり』
オシャレの話だけでなく、こうしたことも伝えてくれるのがジュンだ。
ジュンの意見を頼もしく聞きながら、また知らせてねと電話を切った。
夜も更けて、そろそろ寝なくてはと立ち上がったところで、また電話が着信を告げた。
発信者はユリこと岩谷由利だった。