Shine Episode Ⅱ
『ハーイ、水穂、ご機嫌いかが?』
『機嫌はサイアク、寝るところだけど……』
『あら、冷たいじゃない。ジュンとは話せても、私の電話は嫌ってこと?』
『ジュンと電話してたって、どうしてわかるのよ』
『わかるわよぉ。だってジュンに電話したら話中だった。相手はアンタしかいないでしょう』
『なんだ、そういうこと。で、なに?』
『なにって、話があるから電話したんじゃない。ドレスの髪型は決まった?』
またか……と、水穂は嫌味たっぷりに大げさにため息をついた。
その話はジュンにしたから、彼女から聞いてとつれなく返事をする。
『あのさぁ、目立つなとか言わないでよ』
『須藤さんに言われたんでしょう? オシャレしてくださいって。いいじゃないせいぜい目立ってよ』
『バカねぇ、そんなんじゃないわよ。警護する側が目立ってどうするのよ。隠れた部分を楽しむのが本当のオシャレなの』
『ふぅん……』
『興味なさそうね。いいわ、せいぜい当日の私たちを見て驚きなさい。でね、ものは相談なんだけど……』
ユリの相談事は水穂の一存では返事をしかねるもので、籐矢の意見を聞かなくてはいけない、すぐには返事ができないと伝えると、それでかまわないと言う。
そんなやり取りをしていると、玄関が開く音とともに 「ただいま。水穂、どこだ」 と声がして、水穂は慌てて電話口をふさいだ。
が、ときすでに遅く……
『ふふん、いいもの聞いちゃった。神崎さんと一緒に暮らしてるっての、本当だったんだ』
『ちっ、違うわよ。たまたま部屋に来ただけだから、誤解しないで』
『ただいまって、神崎さんの声が聞こえたけど?』
『あっ、あのね。それは』
『はいはい。じゃぁ、さっきのこと、ダンナさまに聞いておいてね。おやすみ~!』
『ユリっ!!』
電話に向かって叫んだが、切られたあとだった。
「また内野から電話か」
「ジュンとユリ、両方です」
「あいつら、熱心に動いてくれているそうだ。潤一郎が感心してたぞ」
「そうですか……」
帰国したらなにを言われるのか、考えただけでも寒気がすると思いながら、ジュンとユリには隠しおおせないだろうと諦めてもいた。
はぁ……と盛大にため息をついた水穂を籐矢の腕が引き寄せ、耳元にあることを告げた。
友人たちにからかわれて曇っていた顔が、たちまち明るくなった。
「明日ですね。わぁ、楽しみ」
「俺もついていっていいか?」
「ダメです」
「なんでだよ」
「だって、恥ずかしいじゃないですか」
「俺にも見せられないほどの露出なのか? そんなのはやめとけ」
「違います。ただ、ちょっと……」
「ちょっと、なんだ?」
「当日楽しみにしてもらいたいなぁと思って……」
「そういうことなら仕方ないか」
水穂が近衛家の披露宴で着用するドレスを作らせて欲しいと言い出したのは、籐矢の継母だった。
潤一郎の兄の結婚式出席のために水穂も籐矢と一緒に帰国すると聞くと、「まだ水穂さんのお衣装が決まっていないのでしたら、私に任せていただけないかしら」 と申し出があった。
一度は辞退したものの、娘にできなかったことを叶えたいと言われて、水穂は断る言葉が見つからなかった。
それは水穂を説得させるための口実だったのかもしれないと思いながらも、籐矢の勧めもあり申し出を受けたのだった。
ドレスは神崎家が懇意にしているデザイナーのデザインで、籐矢の継母のフランス在住の知人を通して採寸や仮縫いが進められていたが、それが仕上がったと籐矢から聞かされたのだ。
水穂は美しい裾や胸のレースを思い浮かべて幸せな気分になっていた。