Shine Episode Ⅱ
仕上がったドレスを受け取った3日後、二人は日本へ向けて出発した。
深夜近くの出発便はほどなく明かりが落とされ、夜の空間に包まれた。
多くの乗客が寝静まった機内の静けさの中、籐矢は眠れぬときを過ごしていた。
バイオリンケースに潜ませたメモの数字は何を示すのか。
控えた8桁の数字をじっと見つめ、数字に関する事柄を連想するため意識を集中させた。
時間、日付け、温度、人の数、物の数……
8桁なら日付だろうとまず思ったが、頭の数字が「267」 だから西暦ではない。
よって日付ではない。
音楽を志す学生の持ち物の中にあったから音符か……と考えて、見つかった数枚の楽譜を思い出した。
まさか関連があるのか……と思いをはせて、いや、考えすぎだと打ち消した。
短時間で考えてわかるようなら、とっくにわかっているはずだ。
無駄な努力だったかと思ったとたん眠気に襲われた。
すでに深い眠りに入っている水穂の寝顔を横に見ながら、籐矢も目を閉じた。
日本到着後、迎えにきた潤一郎に連れられて、ふたりは披露宴の会場となる客船へ向かった。
警備に携わる面々との顔合わせ、入念な打ち合わせで帰国当日は過ぎていった。
翌日は本番を想定したリハーサルが行われ、籐矢は潤一郎とともに指揮系統のリーダーとして立ちあった。
別行動でリハーサルに参加していた水穂と合流したのは、各部署の責任者がそろった最終会議のあとだった。
神崎さん……と迷ったような声が掛けられた。
「これって偶然だと思いますか? ずっと気になってました」
「うん?」
「数字の下四桁ですけど、明日の日付と同じです」
「だが頭の数字が267だから違うだろう」
「西暦ではなくて、たとえば年号とか」
それも違うだろう……と言いかけて、籐矢の頭に閃くものがあった。
「皇紀という紀元を知ってるか」
「いえ、聞いたことありません」
「初代天皇の即位を元年としたものだ。世界にも例がある。イスラム暦とかイラン暦とか、そういうのと同じだ」
水穂に説明しながら携帯端末に数字を入力する。
267…06……
検索結果、皇紀対照表によると、数字の並びが明日の日付と一致したのだった。
顔を見合わせた二人は、まさかの結果に言葉を飲み込んだ。
「潤一郎、どこだ!」
明日の危険を予測した籐矢は、厳しい顔で走っていった。
煌びやかな披露宴の裏側で、得体の知れない闇の力が動き出そうとしている。
美しいドレスをまとった姿で豪華客船を走り回ることになるのだろうか。
大事な人々を守れるのか……
水穂は任務の大きさをあらためて感じていた。