Shine Episode Ⅱ
「あの足音、籐矢さんね」
「わかるんですか?」
「もうすぐ終りますと、さっき籐矢さんに連絡しておいたの。お姫さまの水穂さんを、早く見たいだろうと思って」
紫子の言葉が終らないうちにドアがノックされ、「どうぞ」 の声とともにドアが開き籐矢が姿を見せた。
着飾った姿を見られる恥ずかしさから、水穂は籐矢よりも先に言葉を発した。
「馬子にも衣装って言いたいんじゃありませんか」
「似合うじゃないか」
「へっ?」
「せっかく褒めたのに、その返事はなんだ」
「だって、神崎さんらしくないから……調子が狂います」
「似合うから似合うと言ったんだよ」
「だから、それがらしくないって」
籐矢と水穂の様子を見ていた紫子が、ふふっと小さく笑った。
「お邪魔みたいだから、私、これで失礼するわ」
「あっ、はい。ありがとうございました」
どうぞごゆっくり、と楽しそうに言い残して部屋を出て行った。
「神崎さんも着替えた方がいいですよ」
「そうだな……」
「なんですか?」
「水穂が女に見える」
「ふんっ、すみませんね。こんな女で」
ぷうっと頬を膨らませて綺麗に口紅が引かれた口を尖らせたが、籐矢の言葉に膨らんだ頬がしぼんだ。
「真珠か」
「これは神崎さんのおかあさまから……プレゼントですとおっしゃったそうですけど。どうしよう」
「もらっておけばいい」
「でも……」
また、「でも」 と言ってしまったと思いながら、ほかの言葉が見つからず水穂はうつむいた。
しおれたように立つ水穂を、籐矢はそっと抱き寄せた。
「今日は俺のそばを離れるな」
「はい」
背中に回された手に力が込められた。
船室の窓から夏の日差しが差し込み、眩しさに二人で目を細めた。
このまま穏やかな時を過ごせたらいいのにという思いは、どちらの胸にもあったが、ひとときの安らぎを胸に気持ちを切り替える。
長い二日間の始まりだった。