Shine Episode Ⅱ

「シン君」


「はぁ?」


「紳君、久しぶりね。見違えちゃった」


「シンって……えっ、水穂さんですか!」


「警視庁から派遣される若手って、紳君だったんだ。こちらでもよろしくね。

私は新郎の妹さんの友人として出席するの。あなたは?」


「新婦の親戚ということになっています。そんなことより、水穂さん、これはいったいどういうことですか」


「近衛部長のおっしゃる通りよ。シン……水野君のことは私もよくわかっている。あなたの力が必要なの」



籐矢がICPOに赴任したあと分室に入った水野は、水穂が出向するまでコンビを組んだ相手だった。

仕事熱心で、何ごとにも手を抜かず取り組む水穂は尊敬できる先輩であり、水野のあこがれでもあった、

美人だと思っていたがこれほどだったとはと、着飾った水穂の姿に見とれていると、「おい」 と呼ぶ不躾な声がして、水野はあからさまに不機嫌な顔をした。



「東郷さんは元気か」


「室長をご存知ですか。あなたは……」


「神崎さんを知らないなんて、アナタそれでも分室の捜査官なの?」



ジュンに言われた水野は、「あーっ」 と叫び、一歩退いて最敬礼した。



「大変失礼いたしました」


「いや、俺は本庁を離れて長い。顔を知らなくて当然だ」


「まことに申し訳ありませんでした」



籐矢へ平謝りに謝る水野へ、ジュンは容赦ない言葉を投げた。



「何も知らずにここに来たの? 呆れた」


「ジュン、私たちにも気がつかないのよ、彼」



ユリとジュンをじっと見つめていた水野が、また 「あーっ!」 と叫んだ。



「ジュンさんとユリさん、どうしてここにいるんですか」



当時、水穂を遊びに誘い出すために何かにつけ分室に顔を出していたジュンとユリを、水野は覚えていた。

広報ポスターのモデルを務める警視庁きっての美人二人が現れると、分室の猛者は色めきたったものだ。

今日はジュンもユリも力の入った盛装である、水野が気がつかないのも仕方がない。



「私たちは、新婦の珠貴さんのお友達なの」


「おふたりも……」



しばらく唖然としていたが、思い当たることがあったのか真顔になった。



「水穂さんだけでなく、ジュンさんもユリさんも新婦の友人というのは、少々でき過ぎですね。

現役の警察官が私的な依頼で警護ですか。神崎さんまで」


「まぁ、いろいろ事情があるんだよ」


「こんなことが外部に知れたら……」


「私が責任を取る。頭を下げて辞任すればなんとかなるだろう」



立ち上がった紳士を見た水野の顔つきが変わった。



「失礼ですが、警察庁の京極長官でいらっしゃいますか」



黙ってうなずく長官へ、水野はまたも最敬礼をとった。



「長官までどうしてこちらに」



集った顔ぶれをあらためて確認して青ざめる水野へ、ジュンが集った面々の紹介を始めた。



「京極長官のお隣にいらっしゃるのが近衛警公安部長、アナタに紹介するまでもないでしょうけど」


「はい、存じております」


「こちらは警察庁の……さん、こちらは警視庁の……さん。そして、こちらが外務省の方々。

近衛情報局長、こちらは情報局の近衛情報官、新郎の弟さんです」


「外務省情報局というと、諜報活動が専門の……」


「そうよ。さすがにわかってるじゃない。私とユリは水穂の頼みで来たけど、決めたのは自分の意思よ。

客船には要人警護のプロももちろん乗り込んでる。でもね、彼らにすべてを任せられない。

世の中の事情って結構複雑なの。 私たちが優雅に正装してるとでも思った? 

冗談じゃないわ!  悪い奴らに感づかれないために、招待客になりきってるの。わかった?」


「はい……」



ジュンの口は容赦なく水野を攻め、これでもかと言葉を投げつけ、言われた水野はうなずくほかない。

だからね、とまだ続けようとするジュンを、ユリの手がそっと押さえた。



「アナタが言うような事態が起こったら、みなさん辞職なさるでしょうね。

もちろん、私とジュンもそのつもり。アナタはどうするつもり?

それとも、そうなる前に、ここで聞いたことを上層部に告げ口する?」


「いいえ……」



ユリのとどめの一言に水野の顔に苦悩の色が満ち、優秀な捜査官は身の処し方をとわれ判断に迷っていた。

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