Shine Episode Ⅱ
「内野も岩谷もそのへんにしておけ。水野、納得いかないならここで帰ってもいい。
この任務はかなりのリスクを背負う、強要はしない。
だが、俺としては水野に残って欲しい。関係機関に根回しをする時間はない。
優秀な捜査官が必要だ」
「神崎さん……そうまでして内密にする理由はなんですか。
久我グループ会長、久我伊周さんが狙われているかもしれない、その疑惑だけではないようですね」
水野は籐矢の言葉に気持ちを決めたのか、鋭い問いを向けてきた。
籐矢の顔が満足そうに微笑む。
「ふっ、そうだな。おまえ、それを聞いたら帰れなくなるぞ」
「わかっています」
籐矢を見て水野が不敵に笑った。
その笑みが協力するという了解となった。
「俺が長年追いかけているテロの犯人につながる人物が、この客船に乗っている可能性がある。
まだ断言はできないが、おそらく間違いないだろう」
やはりそうだったのかと水穂は息をのんだ。
フランスにおける大使館のテロ未遂事件、それ以前に見つかった楽譜の謎、バイオリンケースのメモ、それらをつなげると籐矢が追いかけてきたテロの犯人に結びつく。
籐矢からはっきり言われたわけではなかったが、帰国から今日まで籐矢に漂う気配にただならぬものを感じていた。
「神崎さんが追っている……聞いています。そのためにICPOに行かれたそうですね」
「追い詰めては何度も逃げられた。今度こそ……」
籐矢が拳を握り締める。
怒りの焔 (ほむら)が背中から立ち上っている、水穂はそう思った。
「俺が持ち帰った手がかりを、いま科捜研で調べてもらっている。その結果次第では……」
言葉を詰まらせた籐矢は唇を噛んで何かに耐え、籐矢の苦しみを知る水穂もいたたまれない思いがした。
「あのテロ事件で私の姪も犠牲になった。見過ごすことはできない」
「京極長官の姪御さんも……」
籐矢と京極長官が叔父と甥であることを、ユリが水野にささやいた。
静まり返る部屋には、みなのひそやかな息遣いだけが聞こえていた。
それぞれが一言では口にできない事件への思いに浸っていたが、水穂は科捜研と聞いて、胸にしまいこんだ切なさを思い出した。
科捜研にいるあの人は、いまどうしているだろう……
別れを告げたときの栗山の哀しそうな顔は、水穂の胸の奥に沈んでいた。
「食事をはじめましょうか。冷めてしまったが、料理は一流のレストランにも負けませんよ」
「久我さん、今日のためにどこぞのシェフをスカウトしたそうじゃないですか」
「えぇ、このまま客船に乗ってもらえないかと頼みましたが断られました」
「ははっ、それはそれは」
久我社長、京極長官、近衛部長の3人の会話が張り詰めた空気をほぐしていく。
久我社長が 「みなさんもどうぞ」 と促し、そろって食事をはじめ、「時間を少し過ぎましたが」 と発した潤一郎が会を仕切り、打ち合わせが始まった。