Shine Episode Ⅱ

食事が終わる頃合いを見計らったように、一人の男が案内されてきた。



「失礼いたします。科学捜査研究所の栗山です」


「おぅ、待ってたぞ」



手を挙げた籐矢のもとに近づく男から水穂は目が離せない。



「遅くなりました。結果がでました……香坂さん、元気そうだね」



現れたのは、かつて水穂が交際していた栗山だった。

栗山は水穂に懐かしそうに声をかけたが、それ以上を話すことなかった。

持参した資料を見ながら額をつき合わせ真剣に語り合い、そこへ潤一郎が呼ばれ小声でやり取りがかわされる。

三人の顔がうなずきあい、それから居並ぶ警察幹部にも内容が伝えられた。

報告を聞く彼らの顔は厳しいもので、栗山によってもたらされた情報は重大なものであることが、見守る水穂たちにも伝わってきた。

籐矢と栗山はまだ何かを話し合っていたが、二人が並ぶ姿を目にする水穂は穏やかではなかった。

捜査にかかわる重要事項であれば、おって籐矢が話してくれるだろう、そう考えて視線を横へとはずした。

栗山と籐矢、二人の男性の間で揺れた気持ちに区切りをつけ、水穂は籐矢を選んだ。

自分の気持ちに正直であったことに悔いはないが、水穂の気持ちを尊重し黙って別れを受け入れてくれた栗山には、申し訳ないとの思いがいつまでも残っていた。

仕事でかかわりがある限り栗山を避けるわけにはいかないが、籐矢もいるこの場で平静でいられる自信はない。

顔を隠すようにうつむく水穂の手を取ったのはジュンだった。



「ちょっとおいで」


「えっ?」



突然おいでと言われて、水穂は困った顔をした。



「神崎さん、少し席をはずします」


「どうした」


「化粧室です、女は身だしなみが大切ですから。すぐ戻ります」


「わかった。もうすぐ客の乗船時刻だ……内野、頼んだぞ」


「はい」



ジュンはユリとともに水穂を無理やり連れ出した。

化粧の手直しなど必要ないと思ったが、栗山と籐矢の顔を見ずにすむならと水穂はどこかほっとしていた。

化粧室の鏡前に立ったジュンが鏡の中の水穂に話しかけ、ユリはいつものごとく仕切りはジュンに任せて黙っている。



「水穂、そんな顔しないの。栗山さんが気にするじゃない」


「うん……」


「イイ女は過ぎた恋愛を笑って過去にするのよ。ほら、笑って」


「無理だって、そんなの……」



笑えと言われて笑えたらどんなに楽だろう、それができないから悩んでいるのだ。

水穂はコンパクトに押し当てたパフを乱暴に肌にはたいた。



「けどね、これからも仕事で会うのよ。アンタが吹っ切れなくてどうするの」


「今は無理」



パンパンとはたいたファンデーションが粉となって空中に舞い、水穂の乱れる心のように細かい粒子が拡散する。

水穂の手を捕まえたユリは、「貸して」 とひとこと声をかけて水穂からパフを取り上げた。



「そんなんじゃダメ。せっかくのメイクが台無しになっちゃう」



ユリの手はパフを軽く肌に押し当て、ファンデーションを薄く伸ばしていく。



「お肌はデリケートなの、男性もそうよ。男って案外傷つきやすいの。

アンタがそんな顔してると、栗山さんだけじゃなく神崎さんも辛くなるのよ。わかる?」


「どうして、そこで神崎さんが出てくるのよ」


「あはっ、やっぱりわからないか」


「わからない」


「神崎さんは栗山さんからアンタを奪った男だもの。けどさぁ、あの人、思ったより大人だわ。

頼んだぞって、なかなか言えない台詞よね。水穂のこと、ちゃんとわかってる」


「はぁ? どこがわかってるのよ。頼んだぞってのは、早く現場にもどれってことでしょう」


「バカねぇ、私とジュンに水穂を頼むって、そういう意味よ。ねぇ、ジュン」


「そうそう、私を見た神崎さんの目は、恋人を心配する男の目だった」


「そんなこと……ない」



そんなことない、と言いながら水穂の顔はたちまち赤らんできた。

籐矢が自分を心配してくれているのかと考えただけで、体の奥が火照ってくる。



「ふっ、やだ、水穂、かわいい。赤くなってる」


「なってない!」



ジュンとユリにからかわれながら身だしなみを整え終わるころには、水穂の染まった頬も落ち着いた色に戻っていた。

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