Shine Episode Ⅱ

衣擦れの音が緊迫した空気を破った。

ドレスの裾を持ち上げながら水穂が駆け寄ってきた。



「手配が完了しました。キャビンフロアへの客の立ち入りを禁止しました」


「よくそんなことができたな」


「絨毯に染料がこぼれたため、出航前に交換するということで、客室の廊下の絨毯を替える

作業をしますと伝えました」


「うまいことを思いついたものだ」



そんなことありませんけど、自分でもいいアイディアだと思いますと水穂は照れている。

客船の披露宴は、近海クルーズを含めた二日間にわたって行われる。

すべての客が二日間出席するわけではなく、3分の1ほどの客は夜の出航を前に下船すること

になっている。

出航前にめどをつけなければ、客に混じって犯人が下船する可能性がある。

水穂のとった処置は、その点も踏まえてのことで、籐矢が水穂を褒めたのもそんなことから

だ。

ほかにも箱が見つかったそうですね、危険はありませんかと水穂は状況を聞いてきた。



「フェイクだった、ハメられたな。監視カメラにも不審な人物は写っていない。どうなって

るんだ、まるで見えない敵を追いかけているようだ」


「でも、これで敵の存在がはっきりしました。誰かが何かを企てていることは間違いありま

せん」


「そうとも言えるな」


「そうですよ、全力で阻止しましょう」


「油断するな」


「もちろんです」



水穂から頼もしい言葉が続く。

怒りに満ちた籐矢の目が、目的に向かって突き進む意欲的な色に変わった。

水穂の言葉が籐矢の気持ちの向きを変え、負の意識だけでなく立ち向かう意欲を与えたのだ。

人と深く付き合うことを避けてきた籐矢が、水穂をそばにおき懐深く関わっているのは、

なるほどこういうわけかと、潤一郎は密かに納得したのだった。


華々しく披露宴が行われる裏側で、捜査員の動きは活発になっていた。

数百名の招待客に気取られず、披露宴に支障を与えずに問題に対処することが、捜査員たちに

課せられた任務である。

船内各所から計8個の箱が見つかったが、そのどれもが危険のないものだった。

スイートフロアから見つからなかったのは、それだけスイートの警備が厳重であるということ

でもある。

船内を走り回る彼らは食事の暇もなく、誰もが任務に没頭していた。

その後何事もなく、船が岸壁を離れる時刻となった。

夜の港に船の汽笛が響く。

『客船 久遠』 は錨 (いかり) を上げた。

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