Shine Episode Ⅱ

化粧室に入り 「食べ損なっちゃったわね、お腹すいたね」 と食べ物の愚痴を言いながら、警備の話も話題になった。



「私とユリは身辺警護だからたいした苦労はないけど、水穂は大変ね。

ずっと神崎さんと走り回ってるんでしょう?」


「そうよ、せっかくドレスを着てるのに、全然優雅じゃないの。

監視カメラをあちこちに設置してるけどアテにならないわね」



あそこもここも監視しているが、事件に関係ないものばかり映っているのだと水穂はこぼした。



「披露宴、豪華でしょう」


「凄いのひとことね。でもね、派手じゃないの。豪華だけど品があるわね。

出席者も、大臣とか議員とか、名前を聞けば知ってる会社の役員や著名人もいて、一般人には縁遠い世界ね」


「そうそう、私も少しだけ披露宴をのぞいたけど、そのときね、いろんな人が神崎さんに声をかけてきたの」


「さすが神崎光学の長男ね」


「うん。神崎さんって育ちがいいんだって、こんなとき思うな」



ぶっきらぼうに振舞うことも多いが、ときどき垣間見える所作に育ちの良さを感じることが多いのも籐矢だ。

ジュンの器用な手に髪の直しを任せながら、水穂は籐矢が育った環境と自分との違いを考えていた。



「でもね、神崎さんはアンタがいいのよ。わかってるでしょうけど」


「えっ?」


「あの人は、家柄とか関係ないの。気が強くて、言い返す水穂がいいの。

水穂、ずっとそのまんまでいてね」


「ジュン……」


「ほら、できた。いこう、お腹すいちゃった」


「うん」



そのままでと言ってくれた友人の言葉に、水穂は胸の奥が熱くなった。


部屋に戻ると、「すまなかったな」 とぼそっと籐矢は謝ってきた。

ぶっきらぼうでも、口が悪くても、自分も籐矢がいいのだと水穂は思った。

それでも素直になれず、ふんっと横を向いてしまう。



「こっちにこい」


「いやです」


「いいからこい!」


「いやですよ、わたし、お腹がすきました」



「夫婦喧嘩はほどほどにね~」 とジュンのからかう声に目をむいたが、口の悪い友人は早々に弁当にありついている。

「ジュン!」 と怒鳴った水穂を、籐矢は強引に部屋から連れ出した。




「ひろさんのお弁当、食べたいのに。ひどいです」


「あとでいくらでも食わせてやる」



見上げた籐矢の顔は険しさが満ちていた。

「何かあったんですか」 と聞いた水穂へ小さくうなずき、部屋から遠く離れた場所まで来て立ち止まった。



「内野とどんな話をした」


「どんなって、披露宴が豪華だとか、招待客に神崎さんを知っている人が多いとか」


「監視カメラの話をしただろう」


「えっ? しましたけど、どうして?」


「情報がもれているようだ」


「待ってください、私とジュンを疑ってるんですか!」


「そうだ、正確には内野に疑いがかかっている」


「ありえません! どういうことか説明してください」



大声を出すなと言われてあわてて口を手で塞いだが、水穂の目は籐矢を睨んだままだ。



「昼の会議で話された内容が、筒抜けになっているぞ」


「昼の会議って、最終打ち合わせの? どんなことですか」


「水野が久我会長の警護につくことが漏れている。水野の動きを封じられた」



水穂が予想したとおり、籐矢と水野は以前からの知り合いで、危険物処理の専門である水野を指名して捜査に加えた。

むろん水野も承知の上であった。

籐矢と水穂が加わる前に行われた打ち合わせの内容も情報が漏れた形跡があったことから、潤一郎の指示で、昼の会議では真実と虚偽を取り混ぜた内容が語られたのだった。

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