Shine Episode Ⅱ

「じゃぁ、あの場にいた人、みんなが怪しいってことじゃないですか」


「それだけじゃない。虎太郎が波多野結歌を監視していることも知られている。

お前と内野が、トイレの前で虎太郎に会っただろう。そのとき虎太郎が波多野結歌を尾行していると話をしたはずだ」


「しましたけど、でも」


「まだある。さっきおまえたちが部屋を出て間もなく、新たに設置された監視カメラに細工がされた。

ほかにも、内野と岩谷の話から漏れたとしか思えないことがいくつもある。

潤一郎と観察した結果だ」


「だからジュンが怪しいって言うんですか。ジュンはそんなことしません、絶対にありえません」



タキシードの衿を掴んで抗議する水穂の手を、籐矢は両手で抑えた。



「そうだな。内野がそんなことをするとは思えない。俺の言い方が悪かった。

おまえと内野が交わした会話の内容が漏れていることと、内野と岩谷が交わした会話が漏れていることを考え合わせると」


「ジュンが怪しいってことですか。でも」


「潤一郎が、内野の服に盗聴器が仕掛けられている可能性があると言うんだが、どうだ、そんなことが可能か?」


「それこそありえません。私もジュンもユリも、船に乗り込んでから着替えました。

怪しい人物に接触して、あのジュンが気づかないなんて……絶対ないです」


「絶対と言い切れるか? よく考えろ」


「ここに内野を呼んで、本人に事情を聞くのは一番手っ取り早いが、そうなるとこっちの動きを知られてしまうからな」


「待ってください、今考えてます……」



籐矢と潤一郎のわかりにくい会話には、このような事情があった。

固有名詞を避けたのは、できるだけ相手に情報を与えない配慮だった。

わかってみれば、水穂にもなるほどと思うことばかりだった。

だが、ジュンについては思い当たらない。

それでも、朝からの行動をさかのぼり繰り返し考えた。

ジュンとユリも、水穂と同じ頃に客船に乗り込んだ。

大きな荷物を持って、ドレスを着るのが楽しみだ、ドレスに合わせて髪を結ってもらったのだと、嬉しそうに話すジュンの顔を思い浮かべた。

髪を高く結い、抑えた色ではあるが華やかな髪飾りがよく似合っていた……



「あっ、髪を」


「なにか思い出したか」


「ここに来る前、彼女たち美容院に寄ってます。髪に仕掛けられてるとしたら」


「内野が客船の警備にあたると、どうして美容師にわかるんだ。

それこそ内野がしゃべるはずはないだろう」


「警備とは言わなくても、客船の結婚式に出ると言ったかもしれません。

美容師と客って、結構話をするんです。

行きつけの美容院なら、ジュンが警察官だってこと知ってるんじゃないかと思うんです。

何気なく言ったことをつなげれば……」


「客船で披露宴など滅多にない。日にちがわかれば 『久遠』 だと見当がつくな」


「ジュンとユリが私と仲がいいのは、調べればわかります。あぁ、私のせいでジュンがターゲットになったのかも。

神崎さん、急ぎましょう。ジュンがしゃべるたびに情報がもれるんです。止めなきゃ」



すぐさま部屋へと引き返そうとする水穂を籐矢の手が引き止めた。



「そうと決まったわけじゃない。先走るな」


「でも……」


「部屋に戻って話そう」



客室に戻り、額を突き合わせ深刻な顔で打ち合わせをはじめたころ、第二の異変が起こっていた。

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