Shine Episode Ⅱ

水穂が内野淳子から紹介されたと伝えたことが功を奏したのか、美容師は水穂を信用し求める

以上の多くの情報を語った。

それらをもとに調べあげるのは潤一郎の専門分野で、ほどなく業者の正体が明らかとなった。

某メーカーの下請けの業者であることがわかり、親会社の一族の息子が披露宴の招待客、

角田であることまで突き止めた。

ヘッドドレスにつながる会社の息子が客船に乗り合わせていたからといって、その人物が事件

につながっているとは断定できない。

潤一郎は確信を得るために、情報網を駆使して角田の周辺を調べ上げた。

その結果、短期ではあるが角田には音楽の留学歴があり、蜂谷財団が関わっていたことが

判明した。

角田と同時期に留学してた友人数人の名前もわかり、その数人が全員招待客として乗船して

いる事実が浮かび上がった。

しかしながら、角田を含む数人が集まる様子はなく、事件を企てた気配も見いだせなかった。



「偶然でしょうか。不審物が見つかったのは角田の部屋の前です。ほかの箱も、彼らの部屋の

前か近くにありました」



危険物の処理を担った水野だから気がついたことだった。

客室の廊下で発見された不審物のうち、ひとつは波多野結歌、あとの二つが角田と友人の

部屋前にあり、ほかの箱も彼らの部屋の近くに置かれていた。

自分たちで置いたのか? なんのために……との籐矢の声に、そこにいた誰もが首をひ

ねった。



「そんなの変です。自分たちがやりましたと言ってるようなものです」


「仮に角田たちの仕業ではないとして、監視カメラを避けたら、偶然にも彼らの部屋の前

だった……なんてのは、できすぎていますね」


「誰かが、何かを伝えるために、そこに置いたとは考えられないか?」



目を一点に据え、顎に手を添えながらの潤一郎の言葉に、またもみなが首をひねる。

なんのために? と籐矢はふたたび疑問を口にした。



「そう聞かれると、僕も答えに困るんだが……彼らの動きに一貫性がない。

不審物を置いて捜査を撹乱させるのはわかるが、久我の祖父の警護についた水野の行動を

妨害すれば、ターゲットは久我会長だと言っているようなものだ。

VIPが大勢乗っている客船で騒動を起こそうとするなら、綿密な計画を立てるだろう。

広い客船だが、追い詰められたら逃げ場がない。姿を見せず、こちらに正体を見破られずに

計画を実行するはずだからね」



潤一郎の母方の祖父の久我会長は、以前、何者かに脅迫されたことがあった。

蜂谷財団の留学生のバイオリンケースから、久我が所有する客船の披露宴の日付が記された

メモが見つかったことから、厳重な警備がしかれていた。

犯行予告があったわけではないが、籐矢が睨んだとおり客船で異変が起こった。

それらを起こしたのは誰であるか、特定できるところまできていながら、確実な手がかりに

かける今の状況だった。



「ジュンさんの髪のそばでささやきますか」



一計を案じた潤一郎の端正な顔が、同意を求めるように皆を見回した。



「ニセの情報を流すのか」


「いや、嘘をつく必要はない。こちらの警備状況を教えてやるのさ。それで彼らの動きを

さぐろう。何らかの動きがあれば怪しいと睨んでいいだろう」



角田を中心とした数名の行動は捜査員により追跡されたが不審な動きはなく、事件との関連に

結びつけるまでには至らないまま夜中となった。




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