Shine Episode Ⅱ
それは、水穂が籐矢に思いを告げて間もない頃のことだった。
狙われている水穂の警護の名目で、水穂の外出には籐矢が付き添っていた。
それまでは、どことなく距離を保っていて、ふたりで歩くにも肩が触れることなどなかった。
それが、警護をするようになってからというもの水穂の至近距離に身をおき、片時も離さないといわんばかりに常に体のどこかが籐矢と触れている。
人前では多少の距離を保つものの、それも肩が触れ合うほどの距離であり、道を曲がる際はさりげなく水穂の腰に手が回された。
人気のない道になると腰の手は水穂の手を掴み 「絶対に俺のそばを離れるな。危険だぞ」 と言うものの、言うほど危機を感じているようではない。
触れていることで安心しているのはむしろ籐矢の方で、口笛を吹きながら手を繋ぎ歩いている。
「あさってですけど、午後から出かけたいので」
「あさってはダメだ。他の日にしてくれ」
「えーっ、ダメって、それって変じゃないですか。
普通は警護する人の都合にあわせてくれるものでしょう?」
「俺の都合が悪いんだよ、付き添えない」
「わかりました。じゃぁ、ほかに人に頼みます」
「ほかって誰だ、まさか栗山じゃないだろうな」
水穂は栗山のことなど籐矢に言われるまで忘れていたが、あからさまに不機嫌になった顔をからかってみたくなった。
あら、良くわかりましたね、と言わんばかりに籐矢の顔をのぞきこんだ。
「栗山さんは私の言うことはなんだって聞いてくれます。栗山さんに頼みます」
「栗山はダメだ」
「だって、私には警護が必要でしょう? 神崎さんの都合が悪いんじゃ仕方ないですね。
付き添いは栗山さんに頼みますから、神崎さんは自分の用事を優先させてください」
「アイツだけはやめろ」
「どうしてですか? べつに誰だって……」
「俺が嫌なんだよ」
乱暴に言い放った声が水穂の胸に飛び込み、籐矢の想いが全身を駆け抜けた。
籐矢の顔はあらぬ方を向きながら、水穂の手をギュッと握っている。
「わかりました……じゃぁ……」
「先に俺に付き合ってくれ。そのあとおまえに付き合う、それならいいだろう」
「でも、あっちに行ったり、こっちに行ったり、面倒ですね。やっぱり」
「あーっ、ごちゃごちゃ言うな。警護して欲しいなら俺に付き合え、いいな」
メチャクチャな論法だったが、水穂にはそれで充分だった。
籐矢は明らかに栗山を意識していた。
嫉妬と言うべき感情だろうが、それを認めようとしない籐矢の姿も水穂には嬉しいものだった。