Shine Episode Ⅱ


捜査本部に戻り、角田たちの状況を伝える籐矢の報告に、もっとも苦々しい顔をしたのは内野淳子だった。

行きつけの美容院を巻き込み、髪飾りに盗聴器を仕込まれた屈辱に耐えていたのだが、一向に進まない捜査と水穂の失踪がわかっていながら、積極的に動こうとしない潤一郎と籐矢の態度にも苛立っていた。

ジュンの怒りが爆発をするのを寸でのところで止めているのがユリで、友人の性格を知り尽くしているユリはジュンの腕をつかみ暴走させまいとしていた。

ジュンの苛立ちを背中で感じながら、籐矢は感情を抑えた声で潤一郎に問いかけた。



「蜂谷は黒か白か、どっちだと思う」


「波多野さんの話によると、蜂谷廉は、自己に厳しく真面目で約束を守る律儀な性格のようだ。

そんな人物が、流されて酒を口にするとは思えない」


「となると、やはり角田たちに無理やり飲まされたってことか。

俺たちの大声でも目を覚まさなかったんだ。薬か?」


「だろうね。一服盛られたと考えた方がよさそうだ。仲間割れだと仮定して、角田がリーダーだろうか」


「あの場では角田が仕切っていた。内野の髪飾りに仕込んだ盗聴器も、角田の父親の系列会社のものだ。栗山が確認している」



盗聴器を探知した栗山は、角田の父親の会社とつながりのある電子機器メーカーまでも調べ上げていた。



「盗聴器をどこに仕掛けるかによって、性能を発揮できるかそうでないかが分かれます。

内野さんの髪に仕込むとは考えましたね。警備情報をリアルにひろうことができますから」



みなの視線がジュンに集まり、視線を受けた彼女は悔しそうに 「すみません」 と謝った。



「あの、気になったんですけど」



男たちの会話に入ってきたのはユリだった。



「男性が、女の髪飾りに盗聴器を隠そうと思いつくものでしょうか。

美容院の納入業者に成りすまして、美容師を抱き込んで、常連のジュンの情報を聞き出すなんて、男性が考えるにしては手が込みすぎています」


「確かに男には思いつかないことかもしれない。ユリさんは女が絡んでいると考えたんですね」


「そうだと思います」



潤一郎とユリのやり取りに籐矢が身を乗り出した。



「女が計画を考えて角田に指示したのか。角田に指示した女ってのは、蜂谷を膝に抱いていた女か」


「石田みづきですね」



石田みづきの部屋に行きましょうと叫び、部屋を飛び出そうとしたジュンを籐矢の手が引き止めた。



「待て」


「水穂を呼び止めたのも女だったんですよ。石田みづきのほかにも女の仲間がいるはずです。

水穂もひろさんも、そいつらに捕まって。

私を陥れた女から水穂の居場所を聞き出してやるんです。神崎さん、放してください」


「そこまでわかっているならわかるだろう! 

このまま乗り込んでも何の解決にもならない。シラをきられるのがおちだ」


「シラを切ったら脅して吐かせてやる」


「内野、落ち着け」



籐矢が全力で抑え込んではいたが、怒りに駆られたジュンは我を忘れかけていた。

引き止める手を振りほどこうとするジュンに強い言葉が浴びせられた。



「ジュン、神崎さんはアンタより辛いのよ。神崎さんの顔を見なさい!」



ユリの声で我に返ったジュンは、目の前の籐矢を見上げた。

ジュンの目に映った籐矢は、事件に立ち向かう有能な捜査官の顔ではなく、恋人の行方を案じ悲痛にゆがむ顔だった。

振り上げた手が力なくおろされ、両脇にだらりとぶら下がった。



「……すみません」


「石田みづきの部屋には見張りを付けた。動きがあれば連絡がある」


「でも」


「俺たちを振り回すおとりかもしれない」


「おとり?」


「久我会長が狙われている可能性が大きい。これ以上警備を手薄にはできない」


「あっ……そうでした」



潤一郎の祖父、久我会長が標的であるとされていることを失念していたジュンは、水穂と弘乃の安否にばかり気を取られていたのだった。



「内野、力を貸してくれるな」


「私にできることなら、なんでもします」


「うん、頼む」



籐矢の顔がゆっくり動き、潤一郎に作戦は任せたぞというように目くばせした。

長い付き合いで培われた意思の疎通に言葉はいらなかった。


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