Shine Episode Ⅱ
潤一郎の荷物に、不似合なポーチとメイク道具を見つけたのはジュンだった。
ジュンの視線に気がついた潤一郎は、楽屋のソファの下に落ちていたもので、石田みづきの持ち物であろうと、聞かれる前に説明した。
「見せてもらっていいですか」
「うん。ソファの下に転がっていたのを警備員が見つけたものだ。
ファスナーが開いていたのか、中が飛び出して転がっていたのを拾い集めてきたんだ」
「ユリ、見て」
呼ばれるまでもなく、興味津々の顔でユリは近くに寄ってきた。
「へぇ……いいもの使ってるじゃない。さすが、お嬢様の持ち物ね。海外ブランドばっかり」
「ねぇ、これだけ国内ブランドだけど、変じゃない?」
「どれよ。あぁ、これね。このリップグロス、保湿が抜群だから使ってるんじゃない?
私、これと同じの、水穂にあげたことあるけど」
籐矢の顔が大きく動いた。
「リップグロスってのはなんだ」
「口紅じゃないですけど、唇がプルプルになる化粧品です。
水穂、化粧も適当だからグロスぐらいいいのを使いなさいってあげたけど……
神崎さん、もしかしたら、これ」
明らかにひとつだけ異質なリップグロスは、水穂の持ち物ではないかとユリと籐矢は考えていた。
「直接口に塗るのか」
「そうです」
「栗山!」
「見せてください」
リップグロスを使った人物を特定できるか尋ねようと、科捜研の栗山を呼んだのだが、栗山もまたいち早くそばに来ていた。
ユリが手渡したリップグロスをくまなく見ていた栗山は、ほどなくニヤリと笑った。
「香坂さんの物ですよ、これ」
「どうしてわかるんだ」
「彼女の香りがします」
青ざめる籐矢を満足そうに見た栗山は、すみません、冗談ですと言い出した。
一瞬、水穂の過去の男に敗北感を感じた籐矢は、栗山の悪い冗談に憤った。
「おまえ、こんなときに」
「でも、これは香坂さんの物に間違いありません。
見てください、ここにイニシャルがあります。
M・K ミヅキイシダではありません。ミズホコウサカです」
ふたの裏側にペンでイニシャルが記されていた。
「あの子ったら、いまだに名前なんか書いて……小学生みたいだからやめなさいって言ったのに。もぉ……」
「ホント、いつまでもお子ちゃまなんだから」
ジュンもユリも皮肉を言いながら、声は涙でかすれていた。
「楽屋に香坂さんがいたんですね」
「俺が行ったとき、もっと踏み込んで探していれば! クソッ」
「籐矢、これで彼らの関与ははっきりした。追い込むぞ」
「策には策で対抗だ」
籐矢と潤一郎の目つきが変わり、鋭い光を放つ。
「誰か、水野君を呼んできてください」
「わかりました」
潤一郎の声に応じたのは栗山だった。
キャビンを出て走りながら、いましがたの籐矢の顔を思い出していた。
ジュンより誰より、籐矢が駆け出したい思いだっただろう。
大事な人が危険にさらされているかもしれない状況下で、果たして自分は籐矢のように冷静でいられるのか。
自問自答の末の答えに、栗山は自分の負けを思い知らされた。
行方が知れないだけでなく身の危険がせまっているかもしれないのに、冷静でなどいられない。
水穂の無事を願う気持ちは負けないと思ってた栗山は、籐矢が水穂に向ける強い想いを見せつけられたのだった。
「策には策で対抗だ」 と言い切った籐矢には、すでに良策があるのだろう。
捜査官として経験豊富な籐矢と、知力では他を寄せ付けない潤一郎の策は最強と言っても過言ではない。
彼らの働きを直で見るまたとない機会でもある。
自分には自分の役割があり、それをこなすだけだ。
水穂を友人として案じるなら、誰にも文句は言われない。
水野を見つけた栗山は、潤一郎が呼んでいたと告げ見張りの交代についた。