太陽と臆病な猫
「入る前に、一声ぐらい掛けなさいよ!見たところ、中等部の子でしょ!?」
「あ……すみません……!!慌てていたので……」
女子に一喝され身を縮こませていると、佐古と呼ばれていた男子が女子の声を制止した。

「やめろよ。そもそも、中等部のクラスに勝手に入ったのは俺らの方なんだから。みっともないことすんな」
「でもっ!!」
「煩い」
佐古があきれた様子を見せると、女子は幸をキッと睨みつけ、わざとぶつかるようにしてクラスを去って言った。

(すごい人だったな……)

女子が去ったところでゆっくりと教室に入ると、幸は真っ先に自分の席に向かって、お弁当を鞄にしまった。

「気持ち悪いとこ見せてごめんね」
「え?」
「人のキスシーンなんて、気持ち悪いだけでしょ」
「あ……いえ……俺の方こそ……何も声を掛けずに入ってしまって……すみませんでした」幸が軽く頭を下げながら謝罪をすると、佐古はクスクスと笑った。
「キリないな、君なんて名前なの?」
「あ、御園幸と言います」
「ゆき。ね」
透き通るような目で言われて、顔が火照るの幸は感じた。
「じゃあ……あの俺帰ります……失礼しました」そそくさと立ち去ろうとする幸に、佐古は声をかける。
「気をつけて帰りなね。少年」
「はい……」
まだ帰らないのかと思いつつも、家庭教師の存在を思い出した幸は、家まで駆け足で帰ったのだった。

「佐古……先輩……」

この出会いが全てを狂わせるきっかけとなることを幸はまだ知らなかった。
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