夏が残したテラス……
いつものようにテラスに出れば、当たり前のように奏海がコーヒーを俺の前に置く。
 俺は、すぐにコーヒーを口に運ぶ。
 奏海はそれを確認すると、テラスから海を眺める。
 
 たいした会話をするわけでもなく、ただ、海を眺めるだけの時もある。でも、落ち着いた時間が流れる、二人だけのこの時が俺は好きだ。

 でも、海を眺める奏海の横顔に、触れてしまいたくなる気持ちをぐっと押さえていた。


 俺は、奏海が愛しくてたまらない…… 
 だけど、奏海はどうなんだろう? 
 最近、そんな不安が胸の中にチラつく。

 今までは、奏海の近くにいる男と言えば、勇太ぐらいだった。

 だが、最近、俺の胸をざわつかせている奴がいた。夏限定のバイトの高橋だ。確実に、奏海を見ている。苛立つ。


 それに、奏海は美人でスタイルもいい。だから、店に来る男どもが、奏海を見てニヤニヤする。そのつど、俺は、奏海の横に立ち、ナンパしようと声を掛けて来る奴らを睨んで追いやっていた。
 勿論、そんな事を奏海は知らない。


「おお、大変だね。美人に片思いすると、気が気じゃないよな」

 ショップで片付けをしている後ろからの、ムカつく声に振り向いた。
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