夏が残したテラス……
「えっ? 別に何もないよ」

 奏海は、やはり俺の顔を見ず、テーブルを慌ただしく拭く。
 今まで一度だって、こんな事は無かった。
 一体何があった?


「そうか? 疲れてんじゃないのか?」

 俺は、奏海の顔を覗き込んだ。心配な事があるなら言ってほしい。

「大丈夫だよ」

 だが、奏海はその場を去ろうと、トレーを持ち上げた。

 それでも俺は、奏海を引き止めるように口を開いた。


「なあ、奏海…… ちょっと、仕事が立て込んでいるんだ。平日は来られないかもしれない……」


「えっ?」 

 俺を見た奏海の表情は、明らかにいつもと違う。


「そんなに、驚かなくても、週末はなんとかするから……」

 俺は、とにかくダイブショップの事は心配ない事を伝え、食事に誘おうと覚悟を決めたのに…… 


「別に、気にしなくていいわよ。店の事ならなんとでもなるわ」

 だけど、奏海はそう言って俺に背を向けてしまった。


「何、怒ってるんだよ。週末は戻るって言ってるだろ?」

 それでも、奏海の気持に寄り添いたくて、もう一度聞く。


 だって、俺は今日、奏海に気持ちを伝えるつもりで居るんだから……
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