夏が残したテラス……
でも、奏海は、俺の想いとは全く違う態度になっていく。


「だから、気にしなくていいって言ってるじゃない!」

 奏海が、声を上げた。
 こんなに、声を上げるのは、梨夏さんが亡くなってから始めてかもしれない……

 ただ事では無い気がした。


「週末、困るだろ?」

 とにかく、奏海の気持が落ち着くのを待とうと思うのに、奏海は、益々声を上げて行く。


「困らないわよ! 海里さんなんて居なくたって困らない……」

 流石にその言葉はショックだ。


「そうかよ!」

 俺の声も、少々冷ややかになってしまう。

 このまま、奏海と話していて平行線のままだ……

 俺は、奏海が話してくれるのを待とうと海へと目を向けた。

 だけど奏海は、突然訳のわからない事を言い出した。


 「おめでとうございます」

 俺は、驚いて振り向いた。

「何の事だ?」

 俺には、なんの事だかさっぱり分からな……


 しかも、おめでとうと言う事葉にはとても似つかわしくないほど目が怒っている。
 一体、何をそんなに怒っているんだ?

「別に隠さなくてもいいわよ。だから、忙しいのなら店の事はいいって言ったのよ」


「おい。落ち着けよ!」

 俺の口調も強くなる。


「私だって、知っている事があるんだから……  海里さんは、私とは住む世界が違うのよ」

 奏海は、泣きそうな顔で、俺を見ると店の中へ入って行った。

 何を知ったと言うのだ? 俺は、今日全てを話そうと思っていたのに……


 「おい、待て!」

 俺は、慌てて奏海の腕を掴もうとしたのに、まるで邪魔するかのように、高橋がテラスへ出てきた。


 全く、今お前にかまっている暇はない。

 無視して奏海を追い掛けようとした背中に向かって、高橋の声がぶつかってきた。
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