夏が残したテラス……
「奏海」

 海里さんが私を呼んだ。

 呼ばれた事が、嬉しいのか、悲しいのかすらもわからない。


「何?」

 平気なふりで、返事をするのが精一杯だ。


「あ…… 今日のダイビングの講習予定出てる?」

「うん。ミーティングルームに用意出来てる」

「分かった」

 海里さんが返事をすると同時に、

「え―。バイト入ってるの? 海で一緒に遊びたかったのに」

 由梨華が声を上げて、頬を膨らませた。



「忙しいシーズンだからな。ホテルに帰るなら送って行く」


「分かったわ」

 納得いかないようで由梨華の声は、少し声が曇っていた。


 二人の会話を背に、私は店の中へと入った。


 すると、

 すぐに、海里さんも店の中に入いって来た。

 

 海里さんは、ポケットから出した六百円をレジの横に置いた。


「ありがとうございます」

 声が、上手く出ている気がしない。


 どうしようもない切ない気持ちに顔を上げられずにいると、海里さんの暖かい手の平が、ポンポンと私の頭を撫でた。

 いつもと、変わらない海里さんだ。


 でも、海里さんの後ろに近づいてきた、由梨華は明らかいに私を鋭い目で見ていた。


「ありがとうございました」

 慌てて、由梨華にも頭を下げた、


 海里さんが、店から出ると由梨華はピタっと足を止めて、ニコリと私を見た。


「海里さんが言ってたわ。このお店で働く奏海さんは、妹みたいだって。ほんと、仲がいいのね。それに、綺麗な足。生でそこまで出せて羨ましいわ。男の人が気にするのも無理ないわね。それじゃあ、海里さんが待っているから……」


 由梨華は、ぷいっと向きを変え店のドアを開けた。


 いつもは、見送りに出るのに、出られる訳が無かった……
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