夏が残したテラス……
「奏海、私もモーニング頂戴!」

 後ろからユウちゃんと並んで歩く美夜が声を上げた。

「うん。久ぶりだね」

 私は、笑顔で振り向いた。

「かなちゃんも、腕上げたよな。梨夏さんの味と少し違うけどね」

 ユウちゃんが、意味あり気に振り向いた私を見て言った。


「えっ? レシピ通りなのにな? まだまだかな?」

 私は首を竦めた。

 その横から、海里さんの声が私の頭にかぶさってきた。

「奏海らしさがあって、俺は好きだけどな。別に、梨夏さんと全てが同じじゃなくていいんじゃないか? 奏海は奏海の味でさ」


「うん」

 なんだろう、なんか胸がキュンと音を立てた。

 ママに少しでも近づけるようにと、ずっと頑張ってきた。
 それが、正しい事だと思ったし、ママの生きた証をずっと守りたかった。

 でも、奏海の味が好き……
 その言葉に、私の胸は確かに高鳴った。
 ママの味じゃないと言われたようで、本当なら落ち込むはずなのに、どうしようもなく嬉しかった。

 私は、胸の鼓動に気が付かないように、ママの好きだった食べ物や音楽の話をしながら、店へと向かって歩いた。
 ママの話をしているのに、胸の中のドキドキは治まらない。

 坂を下り終わると、店の入口に人影が見えるた。

 もう、客が待っているのだろうか?


「もう~ どこに言ってたのよ~」

 店の入口に立ってこちらを見ていたのは由梨華だった。
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