夏が残したテラス……
由梨華は頬を膨らましながら、海里さんの元に近づいてきた。

 そのとたん、さっきとは違う鈍い音が胸の奥から響いた。

「ちょっとな……」

 海里さんは、なぜかママのお墓参りだとは言わなかった。
 その事に、私は少しだけほっとしていた。
 友里華には、あまり知って欲しくないと思ってしまったからだ……

 「もう~ 私、今夜大阪に帰るんだから、少しくらい一緒に居てくれてもいいんじゃない?」

「ああ。今日も忙しいんだ。今のシーズンは無理だよ」
 
 海里さんの声は、怒っているようには感じないが、ただ、淡々としている気がする。
 見ない方がいいのは分かっているのに、私は顏を上げ海里さんを見た。


「じゃあ、朝食、ホテルのラウンジで食べない?」

 由梨華は、クリッとした目でお願いするように、海里を見上げていた。


 海里さん、ラウンジに行っちゃうのかな?

 胸の中が淋しさと、不安で一杯になってしまい、目を逸らしその場を離れようとした。

 でも海里さんの口からは、

「悪いが、そんな時間ないよ。」

 当たり前とでも言うような答えが返ってきた。

「え~」

 由梨華は、海里さんの腕に絡みつき、離れようとしない。


 私には、何も言えないしどうする事も出来ない。

 店の中へと足を動かすしかなかった。

 でも、海里さんの声が気になってしまい、足が思うように進まない。


「今週、社長に会いに大阪に行く予定だ」


「うわ― パパに!」

 由梨華の顔が、ぱぁっと明るくなったのが声で分かった。


 海里さんの耳元で、何か言葉を交わすと、そのまま由梨華は店に入らずに行ってしまった。
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