夏が残したテラス……
それから一週間、海里さんは店には来なかった。
来られないと言っていたのだから、私のせいではないのかもしれない。だけど、言ってしまった事の後悔ばかりが積もっていた。

海里さんの口からは、何も聞かされてないのに、しばらく来られないと言われた事に、こんなにも感情のコントロールが効かなくなるなんて思いもしなかった。


「どうしたのよ? 眉間に皺よせて、ため息ばっかりついていたわよ」

美夜が、テラスでぼーっと海を眺めていた私の横に並んだ。


 夏休みに入ったといういのに、台風の影響もあって海岸の人もまばらで、どんよりした雲がかかっている。


「自分の情なさに呆れているの。こんなに、気持のコントロールが効かない事は初めて」

私は、手すりに両肘を乗せ頬をつくと、又、ため息を漏らした。


「あはははっ」

 美夜さんは、突然声を出して笑いだした。


「何なの…… 人が真剣に悩んでいるのに……」

 私は、横目で美夜さんを睨んだ。


「ごめん、ごめん。それが、恋よ。恋するとね、人はみんな感情のコントロールなんて気なくなるのよ。思ってない事言っちゃったり、予想外の行動しちゃったり、どうにもならなくなる時があるのよ」


「そんな事言ったって…… あんな事言いたくなかったのに……」


「うん、そうね。素直にならないと、もっと後悔するんじゃない?」
 
美夜さんは、ちらりと私を見た。

「素直?」


「海里に、好きだった言った訳じゃないんでしょ?」

 私は、急にカーッと熱くなった顏を横に振った。

「そんなの、言える訳ないじゃん」


「どうして? 好きなんでしょ?」


「無理だよ……」

 私は、又、ため息をついた。



「海里だって、苦しいんじゃないかな? あの、お嬢様だって、感情のコントロール聞かなかったんじゃない?」


「えっ?」

 私は、顔を上げ美夜をみるとニコリと笑っていた。


 美夜の言っている事がイマイチ理解出来ずず、又、頬をついた。


「そんな事ないよ…… こんなの私だけだよ……」


 この時は、本当にそう思っていた。
 苦しいのも、気持ちのコントロールも出来ず、後悔しくて情けないのは自分だけだと思っていた。
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