夏が残したテラス……
「奏海、美夜さん。今日は、もう店閉めよう。こんな天気じゃ海も無理だろう? 美夜さんも、たまには実家でゆっくりしてよ」

 パパが、何時の間にか戻ってきていたようだ。


「そうね。そうするわ」

 美夜さんは手すりから離れ、両手を上げ大きく伸びをした。


「いつも、悪いな」

 パパがペコリと頭を下げた。


「いいのよ。好きでやってるんだから」

 美夜は、そう言うと手を振って店へのドアを開けかけたが、クルリと振り向いた。


「奏海。あなた、とっても綺麗よ。自信持ちなさい」

 美夜は、楽しそうな笑みを浮かべると、店へと入っていった。


「ふう―。 人の事だと思って」

 私は、大きく息をつくと、又、手すりに頬を付き、少し波の高くなった海を眺めた。

 確か、海里さんが初めてこの店に来たのも、嵐の前のこんな波の日だった。あの時も、私はこうして、ボードを抱えた海里さんを見ていた。
 思い出して思わず笑みが漏れてまった。
 

「奏海。ちょっと会議があって出かけてくる。夕方までには戻るから心配するな。嵐も今夜遅くだろうから」

「うん。会議?」

 私は、パパの声のする方を見て言った。

「ああ、店の事でなぁ。こんな天気の時じゃないと集まれないからな」


「そっかぁ」


「早いうちに、雨戸だけは閉めといてくれよ。それと、北側の手すりが緩んでいるから、帰ってから補強する」


「うん。分かった」


パパは、いつもよりちょっとかしこまった格好に着替えて出かけて行った。
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