夏が残したテラス……
病室を出ると、一気に体の力が抜けた。
 悪い夢であって欲しい。


「海里さん」

 ふいに後ろから、聞きなれない声に呼び止められた。

 振り向いた俺は、一瞬目を疑った。


「野々村…… お前……」

 後輩の野々村なのだが、奴は青いケーシを着て立っていた。


「俺、今ここでインターンしているんです」


「お前…… 医学部だったのか?」


「海里さん、本当に俺の事に何の興味も無かったんですね」

 野々村は、悲しそうに目じりをさげた。


「すまん……」


「いいですよ……  お見舞いですか?」

 野々村は、俺が出て来た病室の方を見た。


「ああ……」


「俺も、驚きました」


「なあ、野々村……」

 俺の言おうとする事を野々村は悟ったのだろう……


「海里さん、外へ出ましょう……」

「ああ」

 俺は、野々村と病院の庭へ出た。


「梨夏さん、すぐ退院出来るんだよな?」

 俺の言葉に、野々村は小さく息を吐いた。


「ええ、退院は出来ます」

「でも……」

「でも?」

 俺は、何か別の答えを願って聞き返した。


「次の発作が来たら、かなり危険な状態になります」

 だが、野々村の答えは梨夏さんと同じものだった。


「何か方法はないのか?」

 俺は、問いただすように野々村を見た。


 野々村は、首を横に振り下を向いた。俺は、その姿に苛立ちを抑える事が出来なかった。


「お前、医者なんだろ! 何とかしろよ!」

 俺は咄嗟に野々村の襟を掴んでいた。


 野々村は、唇をギュッと噛んで下を向いたままだ……


「金で何とかならないのか? 移植とか色々あるだろ! 何とかしろよ!」

 俺は、野々村を激しく揺さぶった。

 すると、野々村が顏を上げキッと俺を睨んだ。
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