幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「そんなこと、河原さんに言われなくても分かってるわよ!荷物運んでるだけの河原さんと違って、水瀬マネージャーは大事な仕事を抱えてるの。

事情も知らないくせに偉そうに言わないでくれる?」


「ごめんっ、そういうつもりじゃなくて」


無理やり休ませるようなことをしたのは良くなかったかな…。でも涼介の体調を考えると休んで欲しいのも事実だ。


「本当にごめん。小早川さんも板挟みでつらいのに、考え無しなこと言ったね」


小早川さんは呆れたように眉間に皺を寄せてため息をつく。


「いいわ。あなたに理解できるかは分からないけど説明してあげる。

水瀬マネージャーは中小企業とのコラボレーションで実績を上げて、一年前に専門の部署を立ち上げたの。それがここよ。」


「誰かを助ける仕事ばかりしてるって前に聞いたことあるけど。いつもアンルージュみたいな潰れそうな会社を助けてるってこと?」


「消えたものは戻らないからって言って。たまに取りつかれたように仕事してる時があるわ。

中小なんか相手にしなければ、もっと業績をあげられる人なのに」


小早川さんはパソコンのモニタで涼介の仕事を一覧で見せてくれた。涼介の部署の案件が長いリストになっている。その末端に「アンルージュ」の文字があった。こんなにたくさんの仕事をしていたら忙しいに決まってる。


「だから水瀬マネージャーが優しいからって、これ以上迷惑かけないようにね。元友達と言っても今は雇用主と只のバイトなんだから。立場をわきまえて会社で気安く話しかけないようにして」


「はい…わかりました」


小早川さんの教えを肝に命じる。涼介のために私にできる仕事は、アンルージュの新オープンに向けた準備を進めることだけ。できるだけ迷惑をかけないように。
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