幼なじみの甘い牙に差し押さえられました


「ガーターリング届いたそうです。小夜子さんのチェックもオッケーでしたよ。山下さんが作ってくれた製品化のプロトタイプも素敵だって。」


「やっぱり?我ながら天才だな。日常使いできるガーターリングがあれば全国の太腿フェチの男が泣いて喜ぶと思うぜ?」


「あはは、あれはそういう視点で作ってたんですか…」


職人のように黙々と作業していた時の姿からは想像もつかないような、煩悩全開な言葉。いつもながら山下さんは考えてることが読めない人だ。



「そうそう、親父がまた怪力の嫁さんつれてこいって」


「怪力の嫁さんって…結局勘違いしたままなんですね。工場の仕事楽しかったんで、行けるならまたいつでも行きたいです」


「おう、サンキュ」


山下さんのお父さんを思い出してクスッと笑っていると小早川さんからの視線を感じる。



「あなた、山下さんに乗り換えたの?」


「乗り換えってどういうこと?」


「だから…!さっきの山下さんと話してたのは何なのよ!?」


ジロッと睨まれるけど小早川さんの意味するところは分からない。


「昨日まで山下さんの実家にお邪魔してただけで、特に変わったことはないけど…」


「それのどこが『特に変わったことは無い』なのよ!……あの二人のどっちでもいいとか、本当に腹立つ」


「え?」


小早川さんがガタンと席を立ってしまった。今度はどんな落ち度があったのか、また怒らせてしまったようだ。


そのうちに、同じフロアで仕事をしてる細野さんに声をかけられる。


「環くん、ちょっといい?」


仕事中に話しかけられるのは珍しいなと思いながら細野さんの席に行くと、いつもより神妙な顔をしてる。


「この日、倉庫に出入りした?」


ノートにメモした内容を照らし合わせると、細野さんが示した日付は確かに倉庫で作業してる。


「はい、行ってますよ」


「どんな作業で?」


「確認します、少し待って下さいね」


作業の時に小早川さんに貰ったリストを引き出しにしまっておいたはずだけれど、なぜか見当たらなかった。


「すみません、もう覚えてないです。」


「行った場所は?」


「第一から第三までですね。細かい場所はちょっと…」


細野さんは困ったように笑って「そうか、ありがと」と言った。これだけの説明で細野さんの用件は何か済んだのだろうか。
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