幼なじみの甘い牙に差し押さえられました


「どうしたんですか?」


「いや、今は良いんだ。」


「?」


不思議に思ったものの、忙しいので瞬く間に次の仕事に没頭していった。


その翌日、休暇明けに出社した涼介は、打ち合わせや社内の人との相談事でいつもより輪をかけて忙しそうにしてる。熱がぶり返さないか心配だけど、小早川さんから言われた『涼介に話しかけない』というルールがあるので、ただ遠巻きに眺めるしかない。


「水瀬マネージャー、すみませんさっきの報告失敗しちゃって…」


「あれくらい気にするなって。作ってくれた資料がまとまってたからフォローしやすかったし。図表のページが前よりずっと伝わるようになってる。準備大変だったんじゃない?」


「はい…次こそって思って資料は頑張ったんですけど。でも結局、プレゼンが上手くできなくて」


「最初は誰でもそうだから心配するなよ。少しくらい俺も手伝わせてくれないと、チームで仕事してる意味無いだろ」


涼介が優しく微笑むと、不安そうな顔をした女の子の表情が雲が晴れたようにぱっと輝く。彼女は「次は頑張ります」と席を離れて、幸せそうな笑顔を隠すように顔を伏せて歩いて行った。


仕事の話は分からないけど、涼介が優しくて頼りがいのある上司だというのは何となくわかった。あの子の涼介に対する信頼と、ほんのりと香るような好意も。
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