幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「そうよ、元妻には悪いことをしたと思ってるわ。ホント、アタシには勿体ない良い女なのよ。
結婚した当初は、異性っていうより同性としての憧れの方が強かったわ。…勿論、当時は言えなかったけどね。
今でもたまには会うし、娘だって可愛いのは変わらない。まぁ、娘は難しい年頃だからこんな私とは会ってくれないけど…」
小夜子さんがほうっと淋しそうに溜め息をついている。結婚だとか元妻だとか、小夜子さんをお姉さんと思っていた私には衝撃的すぎて頭がついていかない。
「娘…いたの小夜子さん!?娘さんが難しい年頃って、小夜子さん一体いくつなの?」
「あら、歳を尋ねるなんて不粋ね」
うふふ、と笑う顔は若々しくて妖艶で、せいぜい数歳ほどしか離れていないように見える。人は見かけによらないとはこの事だ…。
「私のことなんてどうでもいいから、話を戻すわ。母が、私がありのままで生きるには世間は厳し過ぎると言ってね。私が自由に仕事できる場所を作ってくれたの。それがここ、アンルージュ。
だから環がここに入った時は不思議な因果のようなものを感じたわ。女なのに女の格好ができないあんたと、男のままでは生きられない私と。
いつか環が羽化するまでは手元で育てようと思ったけれど、似た者同士の私に出来ることは少なくて……色々と行き詰まった時にちょうど水瀬が現れたというわけ。」
話を聞いている間にすっかりお茶を飲み干していて、小夜子さんはハーブティーのおかわりを淹れてくれた。小夜子さんとのティータイムはまだ続けても良いようだ。
「だからこのアンルージュを売却する条件として、水瀬に伝えたのは一つだけ。環を外の世界で生きられるようにすること。
もしその意味も分からない奴だったら、絶対断ってやろうと思ったわ。」
あの時の水瀬の顔はちょっと見物だったわね、と小夜子さんが懐かしむように笑った。
「あいつ、器用な大人のフリしてるからなおさら可愛いったら…マジでたまんないわ」
「小夜子さんよだれ拭いて!それでどうなったの?」
くぅーっと身悶えしてる小夜子さんにハンカチを差し出す。浸っているところを急かして悪いけれど、今は続きが気になる。