幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「私は環の可能性を狭めたくないのよ。いつまでも子供のままで良いの?バスケットを辞めた経緯だってまともとは言えないでしょう。あんたに、きちんと人の輪の中で生きられるようになってほしいの。」
小夜子さんが私をそっとハグしてくれるから、離されたくない一心で、その腕にぎゅっとしがみつく。
「小夜子さんの言ってること、わからないよ!私人見知りしないし社交的って言われるし…」
「あのね環、いつでも元気で、何を言われても笑顔で接してるのって、一周回って人に壁作ってるのと同じなのよ」
思いがけない方向から指摘を受けて、反論できずに押し黙る。
「…心を開いていれば、誰からも嫌われずに、……私、もっと上手くやっていける?」
「それは少し違うわね。誰からも好かれる奴なんか、誰にとっても都合の良い奴と同じよ。
誰から嫌われようがあんたはあんたで、ただそれで良いじゃない。」
小夜子さんの胸に顔を埋めるとフローラルの香りがする。この優しさは本能が知ってる。ママ…。
「離れたくない」
「ふふ、もちろんウチに帰りたいと思うならいつだって帰って来て構わないわよ。ここはあんたが建て直した家なんだから、いつでも迎える用意はあるわ。」
小夜子さんは長い間私を抱き締めて、時折「大丈夫よ」と声をかけてくれた。そんなふうに小夜子さんと触れ合ったのは初めてだった。次第に、じんわりと暖かい気持ちで満たされていく。