幼なじみの甘い牙に差し押さえられました



「今までずっと私を見守っててくれてたんだね、知らなかった」


「そうねえ…。環が私にべったりにならないように距離取ってたからね。
ほら、男として惚れられても困るし。万が一こっちサイドに引き込んだらもっと困るし…まぁ私も色々考えるわよ。」


「えー!?そんな心配してたの?」


「自惚れんなって顔するんじゃないわよ…。これでもいまだに女に言い寄られる方なのよ」


なんだか不満げな小夜子さんに、泣いていたのも忘れて笑いが吹き出す。


「小夜子さん、案外女の子にモテるのが自慢だったり」


「女にモテても別に嬉しかないわよ。けどモテないって思われるのもそれはそれで癪よ?つまり繊細な乙女ゴコロなのよ…」


「あはは、自分のこと乙女って言うの?」


「当然よ!少なくともアンタよか百倍は乙女だわ!」


最後には小夜子さんもつられて笑って、会社に戻る道は自然と駆け足になった。






「どしたん? しまりのない顔して」


「あ、山下さん!俺ニヤニヤしてました?すみません」


会社のエントランスで山下さんとすれ違った。接待に行くらしく、いつもよりキチンとした雰囲気でネクタイを締めてる。


「ちょうど良かった。さっき分かったんだけど、アンルージュの決算が先月で黒字化したぜ」


「え!?だってまだお店も開いてないのに…」


「ネット通販だけでも売り上げがすげーんだよ。ひとまずこれでアンルージュは安泰だ。良かったな」


「ありがとうございます。山下さんのおかげです。」


「おう、もっとおだてろ、褒めろ」


素直にお礼を伝えたつもりだけど、何だか山下さんの方が照れていたみたいだ。山下さんは頭にポンと手をのせると「祝賀会はまた後日!」と早足で出掛けていった。


失くなりかけていたアンルージュが魔法をかけられたように、キラキラと輝きを取り戻していく。

少し前までの、アンルージュのお店に小夜子さんと二人きりでいた時には全く想像もつかないことだった。
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