幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
このままこの会社で働いたらどうなるんだろう?

ガラス張りのエレベーターから広いロビーを見渡すと、社員さんたちはみな忙しそうに足早に歩いてる。遠くから見ているだけでも仕事に夢中なのがわかる。


「私もそんなふうになれるのかな…?」


エレベーターを降りると珍しく数名の警備員の人たち固まって歩いていた。



「河原環さん、少々よろしいですか」


「はい?」


フロアにも警備員の人がいて、その一人に声をかけられる。デスクの方を見ると、アンルージュの企画書や資料、各種サンプルがが引き出しから取り出されていた。それどころかぐちゃぐちゃに荒らされている。



「止めてください、一体何を…!」


デスクに行こうとしたら容赦のない力で止められた。


「大人しく調査に従いなさい。これ以上自分の立場を悪くしないように。」


社員の人たちは取り出さえられている私を遠巻きに見ている。細野さんと目が合い、でもすぐに逸らされてしまった。これまで仲よく話をしてくれ人も皆、遠巻きに眉をひそめて私を見ている。


「何の調査なんですか?」


「倉庫内の備品について、以前から目減りしていたり在庫が合わないとの申告がありました。

何の偶然か知らないがすべて河原さんの入出記録のある日と重なっているんですよ。」


「まさか、俺が盗んだと言ってるんですか!?」


警備員の人はそれきり沈黙した。答える代わりに容赦なく体を拘束される。これではまるで犯罪者だ。


「誤解ですよ!」


「弁解は別室で聞くから、大人しくしなさい」


さらに強く体を羽交い締めにされて、くっと息が漏れた。


「…そんなに力いっぱい押さえたら可哀想ですよ。その人、一応女性なんですよ?」


声をかけたのは小早川さんだった。警備員の人が驚いたように身を引く。


「おかしいな、確かに男性と聞いていたはずだが…」


「いいえ、ごく普通の女性ですよ。
倉庫は可愛いものだらけだったから、つい魔がさしたのかもしれませんね。彼女、節操ないところがあるし」
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