幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「本当か」と鋭い目線を向けられた。


「そうです…」


周囲のざわつきが広がる。「なんでだろ?」とか「やっぱりね」とか。

ひそひそとした声が漏れ聞こえてくると、胸が苦しくてしょうがない。女の人の服が着られなかったことをちゃんと説明しておけば良かった。こんな形で知られることになるなんて…



「ね?そういう嘘を平気でついちゃうよう人だから、欲しいものを盗んでも不思議じゃないっていうか」


小早川さんの声はざわつくオフィスの中で、不思議なくらいフワフワと甘く響く。


「いっつも同じ服着てるし、お金に困ってたのかなぁ。

そういえば前に彼女の噂聞いたことあるんですよ。その時は、そんなのあるわけないって否定したんですけどね。」


「その噂とは?」


「倉庫に出入りしてる外部業者の人に、身体を売ってるって」


「うわ」とか「まじで」とか、さっきより好奇心に満ちた声が聞こえてくる。こちらを振り返った警備員の人が汚らわしいものを見るように眉をしかめた。


「本当か」


警備員の人にもう一度同じ質問をされる。射すような視線に何となく嫌な感じがして、顔を捻って避けた。きっと何を答えても無駄だろう。


性別を偽っていたのは本当のこと。嘘つきなバイトと上品な正社員の女性と、どちらを信用するかなんて考えるまでもない。ここで押し問答することを想像しただけで胃が絞られる心地がする。


ざわつきの中から「売り物になる体型じゃなくね?」と聞こえてきた。「全然セクシー系じゃないし」と。もはや私は見せ物と同じだ。


「でも下着屋さんですよ?男の人を誘惑する服装なら良く知ってるんじゃないですか。

そう考えると…何かアンルージュさんの下着ってすごく下品な気がしますよね。オークの名前で売られるのはちょっと…」


「やめて。今アンルージュの製品は関係ないでしょう」


アンルージュに話が及ぶのだけは止めて欲しい。小早川さんの話を遮ると、「口答えするな」と別室に連れていかれた。参考として小早川さんも同席するらしい。


涼介の姿はオフィスになく、社員の行き先を書き込むホワイトボードに遠方の地名が書き込まれている。

ちょうど山下さんも出掛けていて、私を信頼してくれた二人にこの場を見られなかったことがラッキーだった。
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