幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
別室、と言われたところは思っていたのとなんだか違う。薄暗い部屋にパイプ椅子を想像したけど、普通にソファーのある応接室だ。


「それで、失くなっていたものはもう出てきたんですか?」


「勘違いしないように。質問をするのはこちらの方だ」


口を開けば警備の人に睨まれる。トイレに行くにも小早川さんの付き添いが必要だった。どうやら脱走まで疑われてるらしい。

化粧室の一角にて、意を決して彼女に話しかけた。


「これ以上は止めた方が良いよ。今なら勘違いで済むから」


「何言ってるの?あなたが物を盗んだりするから、こんなところまで付き添わされて、本当にいい迷惑なんだけど!」


「…この会社に入社するのって凄く難しいんでしょ?つまらない理由で棒に振ったら勿体ないと思う。」


小早川さんの眉毛がぴくっと動く。彼女は本来とても真面目な人で、きっと悪いことが得意なタイプじゃない。


「調査をする人も優秀だと思うから、そのうち分かっちゃうと思うんだ。小早川さんが協力を頼んだ関連会社の人とか、移動させた品物とか。」


「まさか私に責任を擦り付けようって言うの!?」


火に油を注いだように彼女が怒りを露にしたとき、携帯が鳴る音がした。画面を見た小早川さんが慌てて電話に出る。ちなみに私の携帯は既に警備の人に取り上げられていた。


「お疲れ様です。小早川です」


「環を知らないか!?あいつがトラブルに巻き込まれたらしくて……」


電話越しに涼介の声がした。
< 111 / 146 >

この作品をシェア

pagetop