幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「あいつが変な疑いをかけられてると聞いたんだけど、悪いことなんかできるやつじゃないからさ」


涼介が私の事を信じてくれてる。ずっと孤立無援で心が折れそうだったけど、電話から漏れる微かな声を聞くだけで元気が出る。




「私は…私は、何も知りません」


「ああ、それより傍にいるなら環に手を貸してやってくれないか?

立場の弱い環を陥れようしてる奴がいる。救いようのない屑だよな…働いてる仲間にそういう奴がいるとは信じたくないけどさ」


「……」


涼介もまさか小早川さんが関係してるとは思わないのだろう。意図せず放った容赦のない言葉が、彼女にぐさっと刺さる。

電話を切った後、ほの暗くゆらゆらとした光が小早川さんの瞳に灯った。


「ね、もう止めよう?」


「まったく、水瀬マネージャーは河原さんの事となると盲目的よね…。

あなた、本当はわざとやってるんでしょ。男の格好するなんて普通は思いつかないわ」


「性別の嘘をついていたのは…本当にごめんなさい。信じられないかもしれないけど、ついこの前までどうしても女の人の服は着られなかったんだ」


この事情を説明するのにはまだ勇気がいる。自分なりに誠実に説明したつもりだけど、伝わっているかわからない。私を見上げる小早川さんの口元はうっすらと笑いを浮かべてた。


「さすがビッチの娘は違うわね。」


「え……?」
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