幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「じゃあどうして罪悪感なんか…」
「環を好きだったから。もちろん友達としてじゃなくて、異性として」
涼介が遠くを見るように微笑む。
「女子が恋愛に騒ぐ歳になっても、環は冷めた目で引いてたろ。環にとって恋は汚いものだって知ってたよ。だから当時は気持ちを伝える気もなかったけど…
結局どうしようもなく好きだから、俺の隣で油断して笑ってる環を見てると、騙してる自分に耐えられなくてさ。
…それはそうと完全にバイオレーションだな。次は俺の番」
「なっ!?」
涼介の独白について考える隙もなく、ぱっとボールを取り上げられる。
「シュート体制に入ってから途中で止めるのは違反だろ?時間も余裕で5秒過ぎてるし、ルール忘れてるのか?」
涼介がしれっと言い放ったのはバスケの正式な試合で適用される反則のこと。ゲーム中なら私だって当然守るけど、
「ずるくない?ねえ今そのルール必要!?」
「ははっ、悪いけど場外戦略なら俺の方が一枚上だよ」
言いながら涼介はあっさりとシュートを決めた。緊張感もなくスムーズで、やけに慣れてるように見える。
そう言えば昔からシュートのフォームがきれいだったっけ。あの頃は体が小さくて、すぐにディフェンスに捕まっていたけれど…
「ついでに言うと『居場所をあげる』っていうのも嘘。もう忘れていいよ」
嘘なの?
涼介は約束したからと言ってアンルージュにも私にも居場所をくれたのに。
「…どうして?」
「そうだな、スウィッシュ決めてくれたら言うよ」
涼介の真っ直ぐなパスを受けとる。スウィッシュというのはボードにもリングにもボールを当てないシュートのことで、精度の高い理想的なシュートとされている。もちろん、単純にフリースローを決めるより難易度はぐんと上。
「…絶対だからね」
聞かずに終わるなんてできない。
だって、頭の中には壊れたパズルのように涼介の言葉が散らばったままだ。