幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
その翌朝。


「起きたらだめだよ!熱出てるんだから、今日は会社を休むこと」


「分かった、分かったから乗るな」



放っておくと仕事の準備を始めそうな涼介を布団に押さえつける。

昨日と比べて顔色は良くなっているものの、無抵抗だから体が弱ってるに違いない。


涼介は私が長野に行っている間ずっと仕事を詰め込んでいたらしい。その方が気楽だと言うけれど、倒れるまで働くなんて信じられない。涼介は自分のこととなると急に適当になるから困る。


本当は会社を休んで看病をしたいけど、今日はどうしても休めなかった。休んだらガーターリングの完成が遅れて、山下さんと急いで試作品を作った意味がなくなってしまう。

涼介にお粥と果物を用意して、後ろ髪を引かれる思いで会社に行く支度をする。



「環、昨日は」


「うん、夜帰ってきたよ。涼介寝てるし、起こしたら悪いかなと思って。」


「少し話した…?」


「ううん、ずっと寝てたっ。具合悪そうで話せる感じじゃなかった!だから今日くらい寝てなきゃダメ!」



ぼんやりした表情で涼介が考え込んでる。昨夜のことは何故だか反射的に誤魔化してしまった。




「そういえば、工場が山下さんの実家でびっくりしたよ」


「山下紡績産業な」


「なんだ、涼介知ってたの?
ちょっとコワモテなお父さんがいて、面白いお母さんに妹のつむぎちゃんが可愛くて、すごく温かいおうちだったなぁ。

山下さんって不思議だよね。普段は適当そうなのに、工場のミシンですごい繊細な刺繍とかできちゃうんだよ?」


「あんまり想像つかないな…」


「でしょ?山下さんって涼介の同期ってことは私たちと同い年なの?」
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