願わくは、雨にくちづけ
雨隠れの夜
黄金色のまんまるな中秋の名月が、ゆらりと浮かぶ夜。
伊鈴と立花は和室の縁側に座り、空を眺めている。
「うーん、なかなか入ってくれないなぁ」
伊鈴は日本酒に月を浮かべようとしているが、なかなかいい角度が見つからず、こぼさないように気を付けながら試しているところだ。
運命的な出会いから、来月で1年。
立花は相も変わらず彼女を愛で、どれだけ甘やかしても満足できず、隣で月見酒を楽しむ彼女に耽っている。
(今夜も綺麗だ……)
伊鈴をつまみに、片口から日本酒をぐい飲みに注ぎ足す。
「これ、美味しい! お月見にぴったり」
「毎年変わらない味だけどね。伊鈴は本当に和菓子が好きだなぁ」
「大好きです」
うさぎと家紋の焼印が入った月見まんじゅうを食べる伊鈴が微笑むと、胸の奥がギュッと掴まれたようになる感覚は、1年前から変わっていない。
(なんでこんなにかわいいんだ)
立花は、月見よりも伊鈴に夢中で、ひたすらぐい飲みに口をつけた。
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