願わくは、雨にくちづけ
(煌さん、今日も素敵だなぁ)
着物姿で隣に座る立花を直視できず、ぐい飲みに月を浮かべる。
それでも、時折彼を見つめれば、ふっと秋風が通ったような涼やかな微笑みを見せられて、伊鈴の胸の奥も同じようにドキドキしていた。
「月は映ったか?」
「ちょっとだけ」
「そうか。来年も月見しような」
「はい」
少しずつ飲んでいた2杯目の日本酒が空になり、伊鈴はぐい飲みを盆に置く。
すると、立花がそれを端に除け、キャメル色のカーディガンを羽織った伊鈴の肩を抱いた。
「その次も、10年後も、20年後も、ずっと」
「…………」
交際して半年ほど経った頃から、立花は結婚を仄めかすようになった。
プロポーズのような甘い言葉もたくさん聞かされてきたし、愛されていない日はないと断言できるほど、伊鈴の毎日を染め上げている。
だけど、伊鈴は彼の甘い言葉に返事はできず、毎回小さく頷くばかりだった。