願わくは、雨にくちづけ
愛しい君に、真実を
9月末、最終週の平日は慌ただしい。
社内全体が上半期の決算を迎えているからだ。
「十河さん、この資料の元ファイルって持ってますか?」
「どれ?」
隣席から新井が話しかけてきたので、伊鈴は彼のデスクに身体を寄せ、デスクトップの画面に視線を移す。
「去年の資料だね。でも、どうして?」
「これを元に、自分なりに営業会議の資料を作ってみたいと思ったんです。営業会議の資料作成と会議出席は、昇進への第一歩かと思いまして」
ふーん、と軽く流し、伊鈴は自席に戻って、営業部の過去ファイルを開く。
今秋入社したばかりの新井には、まだ閲覧権限が与えられていなかったようで、伊鈴はついでにシステム部にも連絡を入れて、権限の付与を申し入れた。