願わくは、雨にくちづけ
「十河さん、今度飲みに行きませんか?」
「うーん……行かないでおこうかな」
「どうしてですか?」
お互いにキーボードを叩き、デスクトップに視線を合わせながら話す。
顔を見ずに話しかけてきた新井に、どのタイミングで告白の返事をしようかと伊鈴は考えた。
断るのは早い方がいいだろう。
でも、そのためだけに彼とふたりで出かけるのは避けたい。この前みたいに、勝手に傘に入ってきたり、立花との通話を切ってしまったりと、やんちゃが過ぎたから警戒しているのだ。
それに、断った後もこうして隣席で日々顔を合わせるわけで……。
(どのタイミングで話せばいいんだろうなぁ)
本来なら、先日の飲み会の帰りに不意を突いて告白された直後に、「大切な人がいる」ときっちり断るべきだった。
でも、伊鈴の返事を避けるかのように、新井は他の同僚の輪に混ざってしまった。
(なんで私が悩まないといけないのよ)
返事がもらえず、もどかしい思いをするべきは彼の方なのに。