願わくは、雨にくちづけ
そうはいかないと思い踏みとどまるのは、こうして仕事をしている時間にも充実を感じているから。
だけど、プロポーズの返事を長々と先延ばしにはしたくない。
実際、そうなってしまっているところがあって心苦しいが、どうしても勇気が足りなくて、決断ができずにいる。
いくら温厚な彼でも、限界は感じるだろう。もしかしたら、とっくにそんな時は迎えているかもしれない。
会うたびに甘い言葉を聞いてきたし、月見の夜は〝奥さんになって〟とストレートな言葉で心は大きく揺れた。
だからと言って、勢いで結婚を決めるわけにはいかない。
でも、プロポーズを断る決断をしたなら、立花とは別れなくてはならないことも分かっていて……。
(それだけは嫌……)
なんて我儘なのだろう。
失いたくないなら飛び込むしかないだろうに、それも怖くて踏み出せないなんて。
こんな格好の悪い女だったのかと、初めて見る自分の中の自分と対峙し、伊鈴はどっちつかずな心の揺れに、苛立ちを覚えた。