願わくは、雨にくちづけ
13時になり、新井と揃って席を立つ。
彼の想いを聞かされた上で、ふたりになるのは初めてだ。
立花よりは少し低いが、高身長でスタイルのいい新井のスーツの背中に、つい立花を重ね見た。
(煌さんが会社勤めをしていたら、きっと女性社員の羨望の的だったんだろうなぁ。もし、上司とか先輩だったら、私も恋をしてたはず)
立花は、プライベートでも着物を着ることがある。さすがに伊鈴とデートをする休日は私服だが、仕事帰りは必然的に着物姿だ。
まだ1度も見たことのないスーツ姿を想像しては、思わずボーっとしてしまうのだった。
近くのデリに入り、テーブルに向かい合って座る。
新井は健康的な男子らしく、ローストビーフとハンバーグのミートセットに、グリーンサラダを加えて注文した。伊鈴は、野菜たっぷりのラタトゥイユとチキンとチーズのベーグルだ。
よく利用するこの店は、いつも界隈のOLを中心ににぎわっている。
だけど、新井が店に入った瞬間、店内にいた女性たちの視線が一気に集まったので、居心地はあまりよくない。