願わくは、雨にくちづけ
大きな口でハンバーグにかぶりつき、ご飯を美味しそうに頬張る新井は、どこか幼ささえ感じる。
満面の笑みで「うまっ! ここの店、いいっすね」と話しかけてくる彼に、伊鈴もにこりと微笑んだ。
(食べ終えたら、本題を話そうかな)
せっかく美味しそうにしているのだから、食事中は平穏で過ごしたい。
「そういえば、来週エアロフーズの飯島さんって人と打ち合わせがあって、さっき電話で話したんですけど、十河さんによろしくって言われました」
「……そう。新井くんも分かってると思うけど、エアロフーズさんは大得意だし、うちの売上の核になる客先のひとつだから、慎重にお願いね」
「任せてください」
自信満々の新井に、まさか拓也との過去を知られるわけにもいかず、多くは語れないのだ。
20分ほどで食べ終え、アイスコーヒーを飲みながらゆっくりする。
「新井くん、この前のことだけど、話していいかな?」
「あー、そのことなら、返事は要らないです」
「えっ!?」
伊鈴がきょとんとしていると、新井は唇をキュッと横に引いた。その仕草は、笑顔ではなく、決意の表れのようにも見える。