願わくは、雨にくちづけ
「飲み会の日、十河さんが彼氏さんと話してるのを見て、気づいたんです。宣戦布告だなんて言ったけど、俺に勝算はなさそうだなって……。十河さんが幸せそうなのも、仕事をめっちゃ頑張ってて格好いいのも、たぶん彼氏さんの存在が大きいんじゃないかと思ったら、俺がその役になれる自信はないって分かったんです」
「じゃあ、どうして告白なんてしたの?」
「気持ちも伝えないで諦めて、ずっと隣で働くのは地獄ですよ。週5日も」
「……そっか。ありがとう、新井くん」
想像以上に真剣な新井の想いを知って、伊鈴はお礼を言わずにいられなかった。
あんなことをされたせいで、軽薄な男なのだろうと、勝手な先入観があった。
だけど、彼なりに真面目に思っていてくれたのだと知って、また少し見る目が変わった。
「彼氏さんと順調なんですよね?」
「……おかげさまで」
「今のが返事でいいです。でも、勝手に好きでいさせてください。気が済むまで、もう少しだけ十河さんを好きでいたいんです。いいですか?」
(私がどうこう言えるようなことでもないかな……。ありがたいことではあるし)
それで彼が納得するならと、伊鈴は渋々頷いてしまった。